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「……これ、この絵のひと……!」

最後のページに描かれた人物に、グレーテルが驚きの声を上げる。
投げ掛けた本人であるジルベルトは対照的に冷静な声で

「どういう事だか説明しろ。」

と、鋭い眼差しを向けてきた。
だが恐らく、この場の誰よりもギャリー本人が一番困惑している。
何故ならその絵本に描かれた物語は自分が辿ってきた課程そのもので、最後のページに描かれた人物が他ならぬ自分である事をいち早く理解したからだ。

「なん……で、こんな……いつの間に……?」

絵本を凝視しながら、嫌な汗がだらだらと吹き出してくるのを感じる。
さまざまな受け入れがたい要素が頭の中でとぐろを巻いている。
そして何よりこの本が史実を語っているのだとするならば。



(イヴは外に出られたけど、メアリーも傍に居るって事……!?
それだけじゃないわ。この絵本の題名『なりかわり』……って……。)

どこかで読んだ本を思い出す。 あれは確か、イヴ達と分かたれて単独で進んでいた時の事だ。
赤い木の実の実った図書室のような部屋にあった本……小難しいタイトルに内容だった。

(この世の何とかって本だったっけ……。 確か、存在を交換する事でどうとかって……。)

当初は意味が解らずに深く考えないでいたが。

ギャリーは咄嗟に胸元にある青い薔薇を掴んで、その存在を確かめるように握りしめる。
目覚めた時、周りには散った青い薔薇の花弁があり、同時に大輪で咲き誇ったもうひとつの薔薇に感じた違和感。



信じたくない認めたくない。



「……ギャリーさん…だいじょうぶ……? どこか痛いの…?」

心配して覗き込んでくるグレーテルとは裏腹に、ジルベルトは不機嫌を体言化したように鼻を鳴らす。

「その様子だとオマエ自身は何も知らねェみたいだな。 けどこれくらい答えられンだろ。」

言ってグレーテルから絵本を剥ぎ取ると、裏表紙を示して再度問いかけた。

「オマエ、62××年にゲルテナの展覧会にでも来たか? ここに書いてある日にだ。」

「……そうだけど、何で月日じゃなくてわざわざ年号なの…………って、まさか。」



現実とはいかに残酷なものか。
心の中で必死に否定していたギャリーを嘲笑うかのように、それは無情にも真実を突きつける。

ジルベルトの言わんとする部分に気づいてしまい、ギャリーは青ざめた顔で絵本の裏表紙を凝視した。 そこにはギャリーが美術館に来た日付が印字されている。
おそらく自分やイヴが迷い混んだ日が出版日として設定されているのであろう。

だが問題はそこではなく、





「え、これ……10年まえ…の、日付だよ……?」





→ 「54」


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