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部屋に入ってすぐ右手には、壁際に力無く倒れてピクリとも動かない青い薔薇の青年。
その傍らには、その状態を誇張するかのように青年に覆い被さった大きなウサギの人形。
正面には、汗で床ごと湿らせてぐったりと横たわっている桃色の薔薇の少女。
さらに部屋中には血飛沫の如く飛び散った赤い絵の具と、青い人形だったと思われる残骸が転がっている。

地獄絵図とまでは言わないが、正直に感想を挙げるならば、

「ンだよ辛気臭ェ。 ここは殺人現場かよ。」

まさにそんな感じだった。



(……黒いお花の、お兄さん……?)

視覚に関してはぼんやりしすぎて断定出来ないが、声に関しては何となく聞き覚えがあった。
グレーテルは休息を求める体に鞭打って起き上がろうとするが、悲しいかな体力が足りなさすぎて、寝返りをうった程度の行動しか取れない。

それでも意識があるのは伝わったらしい。
黒い薔薇の男性はグレーテルを一瞥すると、鼻を鳴らして「寝てろ」とだけ投げ掛けた。

そのまま倒れているギャリーの傍まで近寄ると、横っ腹の辺りを足で小突く。



「オマエはさっさと起きろ。 確認してェ事があンだよ。」



わざわざ戻って来たのには、どうやら何か理由ができたらしい。
だが何回か小突いてみても、ギャリーが反応を見せる事は無かった。

「うぜェ………オイッ!」

舌打ち混じりに、今度は少し強めに蹴り上げる。

過呼吸も収まり始めて意識もしっかりしてきたグレーテルは、さすがに危機感を覚えてつい口走った。

「お兄、さん……らんぼうはダメだよ……! ギャリーさん、ケガしちゃう………。」

後ろから飛んできた声に足を止めると、ジルベルトはこちら側に鋭い視線を向けてきた。
不機嫌がありありと浮かんでいるその眼差しに怯むも、グレーテルは何とか上体を起こすと、その場からギャリーの名を呼ぶ。



「ギャリーさん……ねぇギャリーさん! お願い、起きて!」





ガチャッ





期待していた反応の代わりに扉から音がした。
反射的にそちらへ目を向けるが、どれだけ待っていても何も来ない。

その代わり、すぐ傍に倒れている青年が軽く咳き込んだ。





→ 「50」


あきゅろす。
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