「……あぁもう! 立ってても始まらないわ。 とにかく調べてみないと。 ……えーと、どっちに行けば良かったかしら?」
疑問など、ここに来たときから尽きないのだ。
事細かく追求する気も起きないほど、青年はこの世界に馴染んでしまっていた。
もともと、細かい事で燻っているのが苦手な性分であったせいかもしれないが。
パズルのピースですら無理やりはめ込んで弾けさせた過去をもつ豪快な精神に本能を任せ、とにかく歩みだす。
過去に摘み取られた花弁で作られた、不本意な道標を辿りながら。
「……見事に何も居ないわね。 ありがたいような、拍子抜けするような…。」
しばらく歩いていくつかの部屋を通り抜けたが、変化は一向にやってこなかった。
前に探索していたときは、数々の美術品達に望まぬ鬼ごっこを余儀なく強制され続けていたはずなのに。
見覚えのある部屋にすら出られず、延々と仄暗い道や部屋を彷徨い続けているせいか、良からぬ思考が脳内を侵食していく。
T路炉に差し掛かった所で、思考が完全に体を支配した。
イヴは無事に出られたのかしら。 それにメアリーは?
まさかイヴ、メアリーに襲われたりなんかしてないわよね……。
そこまで考えて背筋が冷えた。
不穏な考えを振り払うように首を振った青年は、次の瞬間ピタリと体を制止させる。
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音が聞こえた。 いや、微かにだが聞こえている。
思わず息を殺して全神経を耳に集中させ、音の正体を掴もうとする。
(……泣き声? …まさか!)
即座に脳裏に浮かんだのは、共にこの異空間を歩んだ赤い少女の姿。
思い出すと同時に、青年は音のする右側の道へ駆け出していた。
青年が居なくなった場所には、再び静けさが舞い戻る。
しかし、『元の状態に戻った』訳ではない。
その静けさはまるで作られたかのような無音だった。
何もなかったはずの場所に、異変が浮かびあがる。
『一人でいると 恐ろしい』
サァ愉シイ遊戯ガ始マルヨ。
次ハ何シテ遊ボウカ。