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「早く早く!お父さんもお母さんも待ってるよ!
 楽しみだなぁ、ねぇ何食べたい?わたし甘いものが食べたいな。そうだ、半分こして一緒に食べようよ!」

黄色い少女は興奮しているのか、大きめの声で早口に話しかけ、花の咲くような満面の笑顔で行く先を指差していた。
そんな少女に腕を引かれながら後を付いていく赤い少女は、対照的な控えめの微笑みを浮かべながら「嬉しそうだね」などと返している。

そんな会話のほとんどを黄色い少女が占めている中、ふと赤色の少女はぼんやりと、自分の思考が波に揺られるのを感じとっていた。



(……まただ、なんだろう…。何か忘れてるような、思い出さなきゃいけないような感じが……。)



「イヴ、ねぇ聞いてた?どうしたの、またぼんやりしちゃって。」

急に名前を呼ばれて我に返った赤い少女は、ごめんねと黄色い少女に謝りながらまた会話へと意識を戻す。



押し寄せる思考の波に、幾度目かの別れを告げて。





   *   *   *





音の無い世界は耳が痛い。

静まり返った暗い暗い空間には、呼吸音・心臓の脈鐘といった本来あるべき音が存在していなかった。

暗く長い、冷たい回廊。
非現実的に重々しく連なるその路を所々彩るように落ちているのは、無邪気な残忍性の犠牲の跡。

青い薔薇の花弁。
活きていたときはさぞかし幻想的に放っていたろう青色も、今は青黒く萎びて見る影もない。
水分を失いきったそれは老婆の手を通り越して、今にも崩れ落ちそうなミイラを彷彿とさせた。

散らされた青の向こう側に、肖像のように音もなく眠る青紫の人影。
その傍らに、影が新鮮な青を供えた。





ネェイツマデ寝テイルノオ寝坊サン。
ソロソロ目覚メノ時間ダヨ。

遊ボウヨ。 ネェ遊ボウヨ。
寝テバッカリジャツマラナイヨ。

貴方ノ為ニ新シイノ用意シタンダヨ。





音の無い世界に、覚醒の音が鳴る―――……。





→ 「01」


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