以前にもこんな光景を見た記憶がある。
あれはイヴと行動していて、メアリーと出会って間もない時だったと思う。
『赤色の目』という題名の不気味な絵画が飾られていて、その絵に良く似た人形―――今まさに目の前にいるそれなのだが―――がたくさん部屋に飾られていた。
どう見ても何度見ても気持ち悪いだけのその人形を、イヴとメアリーは可愛いとか撫でたいなどと言っていたのだ。
最近の子供はこういうのが好きなのだろうか。 だとしたら理解に苦しむ。
自身がその人形達に恐ろしい目に遭わされたのもあり、目の前に広がる現実には受け入れがたいものがあった。
「グレーテル……。」
失望の混じった呟きに、目の前にいる少女はウサギの人形を抱いたまま、笑顔で「なぁに?」と首を傾げる。
「……アナタ、あそこから落ちて怪我とかしなかったの…?」
「うん。 みんなが助けてくれたんだよ。 ね!」
「みんな」の部分で回りの青い人形達を示すと、少女は明るくきゃっきゃっと笑う。
怯えて泣いていて、殊更にしおらしかった時とはまるで別人のような変わりように、ギャリーは背筋が寒くなるのを感じずには居られなかった。
ぐっと口を引き結ぶと、少女の腕を引いて強引に部屋を出ようとする。
「痛っ…! 手、痛い。 ギャリーさん、怖いよ……どうしたの?」
「どうかしちゃったのはアンタの方よ。 目を覚まして、早くここから出るのよ。」
連れ出そうとするギャリーを拒むかの様に、少女はいやいやと首を振った。
それに反応するかの様に、青い人形達もわらわらと集まってくる。
バシュバシュバシュ
“何で出ていっちゃうの? 一緒に遊ぼうよ”
“ここはお友達がたくさんいるのに”
“貴方も一緒。 ずっとここにいればいいの”
「ふざけないで! アタシにもこの子にも帰る場所があるの!」
次々と壁に浮かび上がった人形達の言葉に激昂すると、行くわよ!と無理矢理少女を担いで駆け出した。
バシュバシュバシュ
“逃げられない逃げられない逃げられない”
“お友達をかえせ”
“永遠にここにいろ”
通り過ぎるか否かの壁に、脅迫状の様に次々と現れる青い文字。 いちいち読んでいる暇も無い。
全速力で扉の前までやってきたが、頑として扉は開かない。
こんな時にと必死で取っ手を揺さぶっていると、突然向こうから扉は開かれた。
「………何してンだオマエ。」
「話は後! 取りあえずここから離れないと!」
何か問いたげな目を向けていたものの、必死の形相で訴えてくるギャリーに何かを感じ取ったらしい。
珍しくその場は黙って言う通りに扉の前から退いてやると、最初にジルベルトが入った左側の部屋へと駆け込んだ。