バタンッ
部屋に入るなり荒げた音を立てて閉められた扉に寄り掛かる形で、ギャリーは少女を俵抱きしながらずるずると地面にへたり込んだ。
ここに来て何回全速力で走ったのだろうか。 もう数える気力もない。
ぜぇはぁと肩を上下させながら荒い息を整えていると、肩へと抱き上げていた少女がもぞもぞと体を動かした。
「もう降りても大丈夫?」
「……、あぁゴメン。 ずっとこのまま、だったわね……。」
呼吸のせいで途切れ途切れになる言葉が終わる前に、少女は地面へと降り立った。
アトリエ跡の様な部屋。
画材特有の香りを充満させたこの部屋には、何かが暴れまわったように道具が散乱しきっている。
「いっぱい散らかってるね。」
「そう言えばそうね。 ジルベルト、何かあったの?」
自分とは違う経路で黒い服の女から逃げ切ったらしい男性に問いかけるが、返事は返ってこなかった。
また何か訳の解らない事で怒っているのかとそちらを見やると、ジルベルトは少女を鋭い眼差しで凝視している。
「納得のいく説明は用意してあるンだろうな。」
「納得って……アタシ言わなかったっけ、グレーテルの事。」
「ガキの話じゃねェ。 俺が聞いてンのは状況の方だ。」
言いながらも視線は少女から離さない。
仮に子供嫌いだったとしてもこの態度は無いのではなかろうか。
「説明も何も、アンタと離れた部屋の中でグレーテルを見つけて連れ出した、それだけの話よ。 ちょっと厄介なのも居たけど。
……アンタ何でそんな睨み付けてるの。」
ギャリーの話を聞いても、ジルベルトの視線は一向に和らぐ様子はなかった。
「グレーテル、こっち来なさい。」
ざわざわと嫌な感覚を覚えながら、ギャリーは少女を手招きして、ジルベルトの視線から隠すよう前に立ち上がる。
その様子を一部始終見やってから、ジルベルトが口を開く。
「グレーテルってのは、ソイツの事か。」
「そうよ。 さっきから言ってるじゃない。」
「……その気味悪ィ人形がか?」