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ガッシャアァァァン!

「オイぼさっとしてンじゃねェよ! 走れ!」

「ななな何? っ痛……わっ!?」

ギャリーの頭は目の前の状況整理が追い付かずにパニック状態に陥る。



ジルベルトがこちらへ向けて花瓶を放り投げた所までは理解できた。
意図も何も解らずに「ぶつかる!」と脳内が叫び衝撃を覚悟して目を瞑る。

だが来ると思ってた衝撃の代わりにジルベルトの怒鳴り声が飛んできたかと思うと、強い力で腕を引かれ、前のめりに足を出した所でそのまま背中を押されて強制的に走らされた。



パキッ、パリン

ジャリジャリジャリ

ガタンッ、ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ



ガラスを踏み砕くような音から聞き覚えのある震動音が耳へ届き、嫌な予感を感じながら後ろを振り向く。
隣り合わせになりそうな程すぐ後ろにはジルベルトが走って来ている。 そしてそのまた後ろには





腕だけでガラスの破片を踏み越えて這い寄ってくる、黒い服の女の姿があった。



「あぁ、アイツ!」

「耳元でデケェ声で出すんじゃねェ! ンだよあの化物女も知り合いか?」

「アンタの薔薇奪った犯人よ!」

どうやらあの隠し穴に落ちた先がこの辺りだったらしい。
二階から落ちて上半身のみでどうやって着地したのかは謎だが、腕でガラスの破片を踏み越えてくる辺りきっとものすごく頑丈なのだろう。
そこまでして追い掛けられる身としては迷惑極まりない話だが。
せめて障害物のある広い部屋なら撒きようがあるものの、直線に長い通路ではただひたすら走るしかない。

「とにかく扉よ! アイツ自分で扉は開けられないから、部屋に逃げ込めたら何とかなるわ。」

「その扉はどこにあンだよ。 うざってェな…あの化物女行動不能にした方が早ェンじゃねェのか。」

「アンタ命知らずも程々にしときなさい!」



各色の服の女達の執念深さは、他の美術品の比ではない。
扉があれば何とかなるとは言ったが、窓や壁をぶち破って侵入してくるような輩である。 安心はできない。
逃げきる算段を立てていると、通路の両脇に扉が一つずつ設置されているのが前方に確認できた。

「あった……! けど、どっちにいけば……。」

選択肢というのは躊躇を生み出すもの。
一瞬戸惑ったギャリーだが、自身が右側を走っていたのもあって駆け込みやすい右側に滑り込む。

そのままジルベルトを促そうとしたが、



バタンッ



扉が勝手に閉まった。

うそ、と真っ青な顔をして扉を開けようと試みるが、鍵まで掛かったのかびくともしない。 ただガチャガチャと音が虚しく響くだけだった。





→ 「39」


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