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「言ったそばから忘れるとか有り得ねェ。」

「だからゴメンって言ってるじゃない。 こうして先に進めたんだからもういいでしょ。」



扉の先からの通路には、懲りずに響く不毛な口論。
不本意に手伝わされた挙げ句、それがまるまる無駄になった事にどうも納得がいかないらしい。
忘れた自分が悪いのだが、面倒な性格をしているなと改めて感じた。

そうだ、性格と言えば。



「ねぇジルベルト。 アンタ絵とか好きなの?」

唐突な質問に、ぶつぶつ文句を言っていた当の本人は「はァ?」と不可解な顔を向けた。

「ここに迷い込んでるって事は来てたんでしょ、美術館。 だからそうなのかと思ったんだけど、違ったかしら?」

純粋な疑問だったのだが、「さァ」の一言ではぐらかされてしまう。
代わりにこちらへ質問が返されてしまった。

「そういうオマエこそどうなンだよ。 浮浪者みてェなナリして美術鑑賞か。」

「いちいち引っ掛かる言い方しないでくれるかしら。
 まぁアタシだってたまたま機会があったから来ただけだけど。」



それがこんな事になろうとは、その時は夢にも思わなかった。
なまじ迷い込んでいる期間が長い分、今となっては慣れてしまっているとグレーテルと行動している時に感じていたが、ジルベルトはそうでもなさそうな割に随分飄々とした態度を貫いている。

「アンタいつからここに迷い込んでたの?」

「オマエに会う少し前。 それがどうした。」

「その割にあんまり戸惑ってないわねって思って。」

神経が図太いのかしらと冗談混じりに付け加えると、オマエは狼狽えてる図が容易に想像できンなと返される。

あぁ可愛くない。 全くもって可愛気がない。
成人していそうな男性に可愛気など求めても仕方無いが、それを差し置いても憎たらしい。
出会ったばかりの時からその印象だけが変わらずに根付いている。

「…そういえばアンタ、アタシが薔薇取り返して来た時に何で壁上ろうとしてたの?」

出会った当初の事を思い出して訪ねると、馬鹿正直に迷路なんてやってらンねェしなどと言い出した。
まさか壁の上でも伝って歩くつもりだったのだろうか。 無茶にも程がある。



そんな会話を繰り広げながら進んでいくと、台の上にあの花瓶が置いてあるのが目に入った。
思えばジルベルトの薔薇の花弁を毟ったきりで回復をしていない。
道中黒い手に襲われたりで少々萎れてしまっているのもあり、体に疲れも溜まっているだろう。 よく座り込んでいたのはそれが原因だったのかもしれない。

(遠慮なく文句は言ってくるくせに、そう言う所は隠すのね。)

薔薇を花瓶に活けてやるジルベルトを横目に、ギャリーは軽く溜め息を吐く。
その僅かな視線に気が付いたのか「何見てンだ」と突っ掛かってきた。 が、





「………動くな。」

「は? え、何よとつぜ……。」

ん、と皆まで言い切る前にジルベルトは花瓶を持ち上げると、ギャリー目掛けて思い切り放り投げてきた。





→ 「38」


あきゅろす。
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