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「はぁ、はぁ……助かったわ……。 けど、アタシごと丸焦げにするつもりだったのアンタ。」

ギャリーはシガレットの火雨の巻き添えになった髪の先を示して、礼と非難を同時に向ける。
よく見ると髪の先が一部、焦げて黒くなっていた。

対するジルベルトは「助かったンだから良いじゃねェか」と悪びれもせず、涼しい顔でさらりと流す。
髪だからまだ良かったものの、これが薔薇ならただ事では済まない所だ。

ジルベルトが前に「化け物よりオマエに殺されそうだ」と言っていたが、ギャリーはギャリーでいつか無茶ぶりの犠牲になりそうだと冷や汗をかいた。
グレーテルの時と違って、相手より自分の守備に力を入れないと命が幾つあっても足りない気がする。



息を整えて新たな部屋を見渡すと、今度は床に奇妙な模様が描かれているのが見てとれた。
絵ではないが、床に大きな芸術を直接描き込んでいる辺りが何となく『深海の世』を彷彿とさせる。

ただ違うのは、それは所々模様が不自然に途切れているのと、各部位が大きな正方形で区切られている事だ。
これが一体何なのかを慎重に判断しようというギャリーの思惑は、しかしあっさりと破られた。

「何だこれ、一個欠けてンじゃねェのか。 お、動いたぜ。」

堂々と近付いて、遠慮も思慮も無く無遠慮に眺めながらジルベルトが呟く。
あまつさえ靴の先でそれを小突くと、正方形で区切られた模様の一つが空白部分へずれ動いたのが確認できた。

見境の無い行動の一つ一つにハラハラしながら、ギャリーは目の前の床に描かれた巨大な模様を分析する。



「これ、『スライドパズル』みたいね。」

「はァ? 何だソレ。」

「『スライディングブロックパズル』。
 敷き詰められた四角のピースを一マスずつ動かして、絵とかを完成させるパズルの事よ。
 アンタもやったことくらいあるんじゃないかしら。」



ギャリーの説明に気の無さそうな返事を寄越して、ジルベルトはその場に座り込んだ。
これは、丸投げする気満々である。

「少しは手伝おうとか思わないのアンタは。」

「めんどくせェ。」

……頭痛が痛い。 いや頭痛がする。
目眩すら感じそうになりながら、本気で相手にしちゃ駄目よと自分に言い聞かせる。
この手のパズルは経験があるだけ良いだろう。 解き方が解ってるなら後は答えを見つけるのみだ。

ギャリーは模様の前に仁王立ちすると、全体図の把握から始めることにした。





→ 「32」


あきゅろす。
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