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文字の暴力、と言うのはこういう事を指すのだろう。
今まで通ってきた道の遥か遠くの床から『火気厳禁』の文字が浮かび上がってこちらへ向かってくる。
しかもそれは近付いて来るごとに文字幅を広げ、通路を覆い尽くして来ていた。

「…ンだよアレは!」

「馬鹿っ! 早くそれ消しなさい!」

言うが早いかジルベルトの手から原因を引ったくると、ライターの蓋の裏にシガレットを押し付けて消化する。

だが文字の進撃は止まらない。
ドスドスと音を鳴らしながら、今や二人の目前にまで迫ってきている。



「飛んで!」



それはもう咄嗟の判断だった。
文字の羅列が触れるか触れないかの所で、それを飛び越えるようにして跳躍する。
二人が着地するのと文字の軍隊が壁に激突したのは同時だった。



派手な破壊音と共に壁が砕け散り、そこでやっと文字は静かになった。
あのまま激突していたかと思うと背筋が寒くなる。
通路に浮かんだ『火気厳禁』の文字は消えずに一面を真っ赤にしたままだが、とりあえず危機は去ったと考えても良いだろう。

盛大な溜め息と共にギャリーはその場に膝を着いた。
ジルベルトは床の文字を睨み付けながら、「…何の冗談だよ」とその場に立ち尽くしている。

「まさか、こンなのに次々襲われ続けて進むのかよ。 冗談じゃねェ。」

「その気持ちには大いに賛成ね。 だったらもう少し行動に気を付けてよ、ホントお願いだから。」

ギャリーが脱力したように付け加えるが、返事は返ってこない。
ちょっとアンタ解ってるの?と顔を上げた先に、また見たくないものを見てしまった。



立っているジルベルトは、不機嫌そうに眉をひそめてそっぽを向いている。





その後ろの壁に、たった一言の文字。










“ お ま え か ”





→ 「30」


あきゅろす。
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