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戻る途中、少し横道を入った所で花瓶を見つけた。
そこへ枯渇寸前の薔薇を活けてやると、例によってたちまち瑞々しさを取り戻す。

「………青い薔薇も珍しいとは思ったけど、これも中々見ない色よね。」

黒い服の女から取り返した薔薇は、その服と同じ真っ黒な花弁をしていた。



元気になった薔薇を携えて元の場所へ戻ると、先程の男性が何やら壁をよじ登ろうと奮闘している光景にかち合った。
唖然としながら立ち尽くしていると、男性はギャリーに気が付いたようで、行動を止める。

「あ、オマエ。」

「オマエじゃなくてギャリーよ。 ……アンタ何してたの?」

「それは俺のセリフだ。 オマエ、何しやがった?」

男性は自身の心臓を指しながら、鋭い眼差しを向けて言い放つ。
そこに感謝の気持ちなど微塵も見当たらない。 ただ疑惑と警戒がありありと浮かぶだけだ。
そんな男性の様子に溜め息を吐くと、ギャリーは青い薔薇と黒い薔薇を示す。

「これ、ここでのアタシ達の命ね。 これが散ったり枯れたりすれば、その薔薇の持ち主は薔薇と同じ運命を辿るの。
 アンタは薔薇を奪われて、その薔薇が毟られてたから倒れたわけ。 わかった?」

あ、元気になったのは花瓶に活けたからね、と説明はしたものの、この様子では簡単には信じてくれないだろう。
実際男性の眼差しは色を変えてはいないし、あまつさえ「ふざけンな真面目に答えろ」などと言い出してきた。

ギャリーはやる気無さそうに視線を泳がせると、男性の目の前に黒い薔薇を差し出して、



ぶちっ

「っ痛ェ!」



その花弁を一枚、目の前で千切って見せる。
当然と言うべきか、突然の痛みに思わず声を上げた男性に、「ホラね」とギャリーはそのまま黒い薔薇を男性に差し出した。

「解ったでしょ。 次からは毟られたりしないように自己管理をしっかりしなさいね。」

「…………。」

男性は何も言わずギャリーの手から薔薇を奪い取ると、忌々しそうに舌打ちをする。
これは前途多難な予感がするわね、と心の中で呟きながら、駄目元で握手を求めてみた。

「さっきも言ったけど、アタシはギャリーって言うの。 アンタ、名前は?」

男性は差し出された手を探るように見やりながら、手も取らず名も名乗らず、ただ一言。





「……………カマかよ。」

友好的に差し出された手が、小気味良い音を立てた平手打ちに変わった瞬間だった。





→ 「27」


あきゅろす。
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