「花弁散ったじゃねェかどうしてくれンだよ。」
「いきなり人の事オカマ呼ばわりするような輩には当然の報いだわ。」
前回の不意の平手打ちは、薔薇に早速ダメージを与えるくらいには効いたらしい。
頬を擦りながら睨み付けてくるものの行動は共にするつもりなのか、歩くギャリーの後ろから着いて歩いてくる。
ジルベルトと名乗った男性は、化け物よりもオマエに殺されそうだと毒づきながら、視界に映った花瓶に足を止めた。
「花瓶ってのは、アレか?」
「そうね。 でもそれアンタの薔薇を取り戻したときに使っちゃったから水残ってないわよ。」
早く新しいの探しましょ、と足も止めずに進むギャリーに一瞬本気で殺意を覚えたが、舌打ちでごまかした。
現状自分よりもギャリーの方がこの状況に詳しいのは解っているのだろう。
理解出来るまでは下手に動かない方が良さそうだと、ジルベルトの勘が告げていた。
「……ちょっと信用してやったらコレかよ。」
「物凄い言い種ね。 アタシだってここ初めて通るんだけど。」
入り組んだ通路を抜けたのと思いきや、突き当たりにぶち当たるという事態に両手の指では足りない回数は陥った。
一向に抜け出せそうにない気配に耐えきれなくなったジルベルトがぼそりと呟いた所で、ギャリーは顎に手を上げて考える。
(おかしいわね……行ける道には全部入ったハズなんだけど。 これじゃ出口の無い迷路じゃない。)
あの落とし穴の様に、何か隠し扉があるのかもしれない。
その考えに至ったギャリーは、壁を調べながら周辺を歩いて回った。 と、
ガチャン
歩くギャリーのポケットから何かが転がり落ちた。
たまたま近くにいたジルベルトがそれを拾うと、鼻を鳴らして嫌みな笑みを向ける。
「何だオマエ、ライターなンて持ってたのかよ。 丁度良いわ、借りるぜ。」
言うだけ言うと自身のポケットからシガレットを取り出し、返事も聞かずにライターで火をつけた。
その行動の一部始終を見ていたギャリーの表情は、何とも形容し難いものだっただろう。
強いて言うのなら、呆れと恐れと驚愕をかき混ぜたような顔をしている。
気がついたジルベルトが「文句あンのかよ」と言おうとした時だった。
ドス
ドスドス
ドスドスドスドス
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス
遠くから何かが近づいてくるような音が響いてくる。
しかもそれは、確実にこちらへ向かってきていた。