元来た道を全速力で駆け戻りながら、ギャリーはどうやって薔薇を取り返すべきか思案していた。
どうやら物を持ちながら這う事ができないのか、黒い服の女はギャリーを追いかける瞬間に持っていた薔薇をその場に放り出して追いかけてきた。
つまりあの場所へ向かえば薔薇が取り戻せるということなのだが、引き返そうにも黒い服の女が追いかけてきてるのでそれは叶わない。
かといって構造もろくに理解できていないこの迷路じみた通路で、回り道で辿り着く自信もあるわけが無かった。
(落ち着いて考えるのよ。 絶対何か解決策があるはず……!)
必死で思考を整理しながら走るギャリーに追い討ちを掛けるかのように、新たな問題が浮上する。
(あ…このまま戻っちゃったら、さっきの男が倒れてる所に絵画女を連れて行くことになるじゃない! ああもう!)
今更な事実に気がついて、ギャリーはわざと元来た道と違う道へ曲がり込んだ。
思考力がすり減った故の咄嗟の行動だったが、吉となったか凶と出たか。
黒い服の女はギャリーを見失ったのか、追いかけては来ずそのまま道を直行して行った。
たがそこは倒れてる男性の所へ繋がっているわけで。
薔薇を取りに戻るには絶好のチャンスだが、このまま男性を見捨てる訳にもいかない。
どう行動すべきか一瞬かなり迷った挙げ句、ギャリーは横道から飛び出して大声で叫んだ。
「どこ見てんのよ、アタシはこっちよ! 悔しかったらもう一度追いかけて来なさいっ!」
………………………………。
だが既に姿も見えなくなってる状態で効果は無いかと思われた。
これは本格的に男性の身が危ないかもしれない。
今流れてる汗とは別に、嫌な汗が流れた時だった。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
あぁ、嫌な予感がするわ。
自らで仕掛けておきながら他人事のように遠い目をするが、音の主はけして待ってなどくれなかった。