一見するなら、世間を甘く見ている一般人。
後ろの跳ねた灰色の髪に、威圧感をもった黄色の目。
真っ黒なスーツを着ているもののボタンも止めず前は開いているし、シャツの襟は立てているしで着こなしは若造のそれ、そのものだ。
男性だが、歳の程はギャリーと同じか下くらいだろう。
蛍火だと思ったのはペンライトだったのだろうか。 手に持っていた細長いそれを胸ポケットにしまいながら、その人物らしき者は上を向いて口を開く。
「あ? これもオマエの仕業か?」
これ、と言うのは急に付いた灯りの事を指しているらしい。
当然違う。 と言うかギャリーからすると目の前のその者の仕業だと思っていたくらいだ。
この場にここまで不自然な存在も珍しいと思いながら突然現れた人物らしき者を見ていて、ふとある事に気が付いた。
「アンタ……薔薇は?」
その者は薔薇を持っていなかった。 ここでは精神の具現化として、人間であろうものなら必ず持ってなければならないもの。
持ってないという事は美術品の類いか、あるいは―――……。
「はァ? やっと口開いたかと思えば意味不明な事言ってンじゃねェよ。 誰かと間違えてンじゃねェのか。」
「……教えてあげる気も失せるわね。」
思考を中断させたその言葉使いに、大人気なくギャリーはムッとしてしまう。
これは美術品というより、この世界に迷い込んだ人間だと考えた方がいいかもしれない。
第一印象通りの人物像で認識しても構わなさそうな振る舞いに、素通りすべきか迷った時だった。
ドサッ
いきなり目の前の人物が膝をつく。
だがそれでも堪えきれなかったのか、地面に俯き倒れると自らの心臓を抑えてもがき苦しみだした。
「…っ……ンだってンだ……よ……!」
相変わらずの急展開に一瞬頭が真っ白になりそうだったが、この光景にギャリーの脳内にデジャヴが走る。
アタシが…ここに迷い込んだとき、どうなってた……?