ギャリーは全力で真っ黒な廊下を疾走していた。
前が見えなかろうが関係無い。 急いで下の階への階段を見つけなければならないのだから。
床と共に崩れ落ちていったグレーテルを追って飛び込もうかとも考えたが、まかり違って少女の上に着地でもしようものなら更に大変な事になる。
その場で叫んでいても、ショックで呆然としていても、状況が改善されるわけではない。
だからギャリーは走っている。 不安な妄想に囚われないように必死で暗い思考を追い払いながら。
やがて何かの部屋らしい所に辿り着く。
だが廊下と同じ真っ黒な壁で覆われているせいで、満足な視界が確保できない。
何となく肌に感じる空気で、ここが入り組んだ構造をしているらしいのを漠然と感じるだけだ。
「……左手の法則……時間が掛かっちゃうかもしれないけど、取り敢えず他に出入り口がないか探さないと。
……無事でいてよ、グレーテル…!」
ギャリーは左手を壁に置きながら、小走りに前へ進んでいく。
前回、こういう迷路じみた部屋に確か『無個性』が徘徊していた記憶があるが、まさか今回もそうだったりするのだろうか。
知らず慎重になっていたせいか時々軽く躓きながら幾分か進んだ時、急に前方に明かりが見えた。
ひどく部分的なそれは、まるで蛍火のような―――……。
そう認識した途端、その明かりは突然こちらを向いた。 急に集中的な光を当てられて眩しさに思わず目を眇める。
同時に耳に届いたそれに、ギャリーは驚きのあまり固まった。
「……誰だオマエ。 人間か?」
その瞬間、部屋全体が明かりを灯して自分の姿を晒すと共に、声の主の姿も明るみに晒された。