「やけにあっさりとクリアできちゃったけど、本当にこれで合ってるのよね?」
鍵を回しながら呟くと、返事のように鍵の開く音がする。
正解だったみたいね、とドアを開けると、そこは壁ごと真っ黒な廊下になっていた。
元々薄暗いのも手伝って必要以上に闇に閉ざされて見えるその廊下は、進むのを躊躇させるくらいには不気味感を醸し出している。
「……ここ、行くの……?」
言外に「怖い、嫌だ」という気持ちが滲み出ているその言葉にギャリーも賛成したくはあったが、それではここから出られない。
せめて灯りになるような物をと、何度目か部屋を見渡した時だった。
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ
急に古時計が動き出した。
秒針の代わりに世話しなく動く分針に合わせて短針も動き、振り子が左右に振られていく。
それらは段々とスピードを上げていき、針に至っては滑らかに盤上を這い回っている。
今までの経験から直感が危険信号を送り出す。
逃げなければ。 それも早急に。
ギャリーがグレーテルの手を人形ごと引っ張って駆け出すのと、古時計が鐘を鳴り響かせるのと、部屋の床が端から崩れ出していくのは同時だった。
「グレーテル! 走って!」
「ふぇ……っ、待ってぇ……!」
手を引きながらとはいえ、幼い少女の足では到底着いてこれないようなスピードでギャリーは走っている。
半ば引き摺られるようにして走っていたグレーテルだが、それも限界のようだった。
「っあ!」
「グレーテルッ!?」
グレーテルは足を縺れさせて大きく転倒した。 その拍子に繋いでいた小さな手がするりと離れていく。
床の崩壊は、転けて俯せに倒れている少女のすぐ後ろまで迫ってきていた。
咄嗟に引き返して手を伸ばすが、一瞬遅かった。
床の崩壊に巻き込まれ、少女は人形を抱いたまま、ゆっくりと奈落へ堕ちていく。
もはや頭が真っ白になって声も出ないのであろう。 緑の目には同じくらいの速度で絶望が広がっていった。
「グレーテル! グレーテルッ!!」
少女を呑み込んで鎮まった崩壊の代わりに、叫び声が虚しく木霊した。
オ友達、オ友達。 オ友達ガ降ッテキタ。
二人デイレバ安心デキル?
一人デイルト恐ロシイ? ネェ恐ロシイ?
マズ一人目、次ハ誰。