「すっかり忘れてたわ。 ここに迷い込んだときに腕から外してポケットに入れてたんだっけ。」
ギャリーは自らのコートのポケットから、バンド部分が焦げ茶色の腕時計を取り出した。
特に電池が切れた訳ではないはずだが、この空間に来たとき辺りからずっと針が止まっている。
アタシの時間っていうのは、これを指してるのかしら。
試しに腕時計と同じ時間を示そうと思ったものの、古時計の背が高すぎてギャリーでも手が届かない。
とっさに台になりそうなものを探してみるが、残念ながら使えそうな物は見当たらなかった。
……こうなれば仕方ない。
「……グレーテル、お願いがあるの。」
「……え。」
「どう? 外せた?」
「……ちょっと固い……あ、開いた……!」
ギャリーに肩車をされる形で時計盤を操作する事になったグレーテルは、苦戦していたガラス蓋を外すのに成功した所だった。
外した蓋を落とさないようにギャリーに手渡して、再度時計盤へと手を伸ばす。
「…何時に合わせればいいの…?」
「3時過ぎくらいでお願い。」
わかった、と相槌を打ちながら時計の針をひとさし指でぐるぐると動かしていく。
時計の針が目的の時間を指したとき、カチッと音がすると秒針が外れてグレーテルの手に落ちてきた。 秒針は、先がギザギザとした鍵特有の形状をしている。
「鍵……とれたよ。」
「よくやったわグレーテル! アリガト。」
ゆっくりとグレーテルを地面に降ろすと、そのまま頭をポンポンと軽く叩く。
少女はウサギの人形を抱え直し、やはり照れたように顔を埋めると「…どういたしまして」と蚊の鳴くような声で返した。
そんなに恥ずかしがるような事なのだろうかと思いつつも、ギャリーは気にしない事にしてドアへと向かう。
後ろからしっかり少女がついてくるのを確認して、ドアへ鍵を差し込んだ。