(黒+青って何よ……紺? 紺色なんてアタシのコート位しか見当たらないじゃない…。)
キョロキョロと辺りを見渡して、ふとテーブルの上のグラスに注目する。
『呑み込める闇』にもしやと思いつつ近づいて見てみると、中には星空さながらの白い粒に大きな黄色の球体。
(満月…これの事? これを色のない所へ移せばいいのかしら?)
ひとまず黄色の球体をグラスから摘まみ上げるが、行き先が解らない。 美術品の集合である以上、色のない部分など存在しないような気がするのだが。
再度辺りを見渡していると、何かに腕をぶつけてしまい慌てて倒れないようにそれを抑える。 薔薇を活けた大きな花瓶だった。
大事な花瓶を落とすだなんてとんでもない事を仕出かす所だったと冷や汗を拭うと、ある事に気が付いてつい「あ」と短く声を上げる。
ギャリーは花瓶の中を覗いて水が残っている事を確認すると、摘まんでいた黄色の球体をその中に入れてみた。
スッコーン!
「っ痛ぁーっ!?」
黄色の球体は水に沈むと同時にみるみる萎んで種になり、どういう理屈なのか花瓶から勢いよく跳んできて、覗き込んでいたギャリーの額に直撃した。
同時に薔薇の花弁も一枚千切れ落ちる。 実に理不尽である。
突然聞こえてきた悲鳴にびっくりしたグレーテルが何事かとこちらを振り返り、丁度足元へ転がってきた種を拾って首を傾げる。
「〜〜〜っ。 謎が解けたと思ったら、痛いじゃないの、もう!」
「……ギャリーさん…どうしたの…、大丈夫…?」
一人で騒いでいるギャリーと拾った種を交互に見ながら、グレーテルが困惑した表情を浮かべた。
ギャリーは額を擦りながら、至極不満そうに「大丈夫よ」と返す。
「そういえば、パズルはどうなったの?」
「あ……それが……。」
グレーテルが言いにくそうにパズルを指差すので、ギャリーは近くまで寄ってきて確認する。
この短時間で、ミルクパズルは殆どの原型を取り戻していた。
ただ、中心部分だけが空白になっている。
しかしパズルの周りには、もう破片は残っていなかった。