「……グレーテル?」
何かあったの、と目線を追って自身の後ろを振り返った時だった。
壁に掛かっていた真っ白な絵に細かな亀裂が入っていくのと同時に、その脇にあった同じく真っ白な女性らしき石像が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
真っ白な絵の亀裂が全体に広がると、その絵はバラバラになって崩れ落ちた。
それを合図にするかのように真っ白な石像が動きを止めると、両手をあげて空を仰ぐようなポーズをとる。
意味が解らずその場に固まる二人の目の前で、その真っ白な石像は溶けるようにして液体と化し、見事なミルククラウンを作り上げた。
一瞬の美が儚く消えた後、暫くしてからようやくギャリーが溜め息を吐く。
「……何だったのよ今の……………ん?」
怪訝な表情は、新たな発見と共に更なる怪訝に上塗りされる。
ミルククラウンの中央が、跳ね上がったままの状態で固定されている。
そこは最初こそ真っ白だったが、みるみる赤くなっていったかと思うと破裂して、白い水溜まりに赤い滴を飛び散らせた。
飛び散った飛沫はじわりと文字を象っていき、やがて一つの文章へと変化していく。
「いちいち回りくどいのよ……。 今度は何?」
文章になったその飛沫を、ギャリーは恐る恐る読み上げた。
“砕けた赤を、破片を集めた白へ捧げよ。
黒+青の満月は色のない世界へ。
別々に生まれた双子の種は樹が育て、
育った双子は一体となり、柔らかな葡萄酒で眠りにつく。”
休む間もない変化の連続に、誰にも聞こえぬ笑い声が重なり響く。
解ルカナ、解ルカナ。 マダマダ遊戯ハ終ワラナイ。
早ク来テネ、待ッテルカラ。