グルルルルル……………。
ガルルルルル……………。
一面白い通路内では、四方から猛獣の唸り声が響き渡る。
その声は鍵を奪われ怒っていると言うよりも、狩りを始める直前の品定めのようだった。
ギャリーに耳を塞ぐようにと言われて言われた通りに耳を塞いでいるものの、その唸り声は完全に防ぐことは出来ず、小さな耳に無理やり入り込んでくる。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう、怖いよぉ……っ!)
自然と目に涙が溢れてくる。
こんな世界見たくない、と言わんばかりにグレーテルは強く目を閉じた。 瞼に押し出された涙が、頬を伝う。
と、その瞬間、体が浮いた。
「グレーテル! 逃げるわよっ!」
気が付いたときには、視線がいつもより高い場所にあった。
ギャリーが俵を担ぐようにグレーテルを肩上で担いで、遠くに見える白いドアまで一直線に駆けている。
自然とギャリーの後方を見る形になっているグレーテルは、自分達が通り抜けた後の絵画から、恐ろしい形相の獣が顔を突き出しているのが見てとれた。
「ギャ…ギャリーさん、絵が出てきてる……!」
「でしょうね。 何となくそんな予感はしてたわ。 怖かったらここは目を塞いでて!」
「…………っ。」
言われた通りに目を瞑ろうとしたが、何となく憚られた。
幼いなりに、頼りきりになるのは良くないと思ったのだろうか。 恐怖で涙目になりながらも、声は出さないようにグレーテルはぐっと口を引き結ぶ。
走る振動で上下にがくがくと揺れながら、ふとグレーテルは足に硬い感触を感じた。
金属のようなその感触は、自らの靴とぶつかってカチカチと音を響かせる。
「…ギャリーさん、ポケットに何か、入ってる……?」
問いかけられたギャリーは「え?」と返すと、走りながらもう片方の手で器用にコートの裾を手繰り寄せる。
そのままポケットに手を突っ込むと、あぁ、と思い出したような声を上げて中身をグレーテルに見せた。
銀色に光るライター。
「……! ギャリーさん、これ、ちょっとだけ借して…!」
それを見たグレーテルは何かを思い付いたのか、片手で何とか自らの襟元の大きなリボンを解くと、それを口に据える。
そしてギャリーの手からライターを借りると、自らのリボンに火を付けた。
「グレーテル!? アンタ何してるの!?」
ギャリーが驚いて声をあげるが、グレーテルはそのままリボンを据えていた口を開いた。
解放されたリボンは、火をゆっくりと纏いながら空中を舞う。
クゥーン……。
絵画より這い出てきた怪物達はその火を見るや否や弱々しい鳴き声を上げると、その場でピタリと立ち止まった。
もちろんギャリーは止まらない。 そのまま一目散に白いドアまで辿り着くと、絵の中から取った白い鍵で解錠して雪崩れ込むようにドアの中へと滑り込む。
バタンッ!と荒げた音を立ててドアを閉めると、一気に脱力したように地面に座り込んだ。