「な…いきなりどうしたのよ。 普通って何が。」
不意のグレーテルの言葉に、ギャリーの思考は霧散してしまう。
そもそも、こんな歪な兄弟関係を見て「普通」とはどういう事か。 つまらないとはどういう事だ。
「えほんの…おはなしの文字をね、文のはしっこだけ読むと、たまに面白い文になったりする…から、どうかなって思って……。」
……………………………。
えーと、これはつまり。
小説なんかでもそうよね。 話の一区切りごとに文と文の間が一行開いたりするの。
その『文の塊』の中の端と端の文章だけ拾って読んでいく……そういう事よね。
「あぁ何だ、ビックリしちゃったじゃない。 要らない深読みしちゃったわ。」
「……ふかよみ?」
「何でもないわよ。 でも言いたい事は解ったわ。 アタシも小さい時はそーいう事してたもの。
頭文字だけ拾って読んでいったりね。」
かしらもじ?と首を傾げたグレーテルに、そうよ、と返して絵本の文章を指差した。
指で示してやりながら、ギャリーは文の頭文字だけを拾って読み聞かせる。
「そみき、とき赤、お・だ・し。 どう? さっきよりよっぽど意味不明で面白味があると思うけど。」
ギャリーのこの提案は、幼心をくすぐったらしい。
グレーテルはここ一番とも言える目の輝きを見せると、ギャリーの真似をして続きを読んだ。
「こ、ろ、し、た、の、は……………あれ?」
文になってる、とグレーテルが首を傾げるより先に、ギャリーは顔面が凍りついたように固まっていた。
(そういえば、話の中にあった言葉、“だれがやったのかいいなさい”と“ほんとうのことをいいなさい”。
……普通、文章で何かを“言う”表現をする時は「」を使うわよね。
それに、「」の中で出てくる“あたま”の文字……でもある文と無い文があるわ。 と言う事は……。)
「」の文章の“あたま”の文字がある文の頭だけを取る。 つまり。
“ころしたのは みんな”
「犯人は兄弟全員……答えは“6”ね。」
ガチャッ
答えは正解だったらしく、ドアの鍵が開く音がした。
グレーテルは展開に頭が着いて行っていないようで、緑色の目をぱちくりさせている。
「ナイスよ、グレーテル。 アナタの文章遊びのお陰で、なぞなぞが解けたわ。」
言いながらギャリーは既にドアノブに手を掛けて、早く進みましょうと手招きをする。
グレーテルは戸惑いつつも律儀に絵本を閉じてから、人形を抱え直してギャリーの後に続いた。
愉シイネ、愉シイネ。
次ハ何シテ遊ボウカ。