「……これのどこが『めでたし』なのよ……。」
疲れた溜め息を交えて、ギャリーは複雑な顔で絵本を閉じる。
グレーテルと二人でドアをくぐった先は、すぐ部屋へと繋がっていた。
子供の部屋よろしく絵本が散乱したその部屋の中で、これ見よがしにドアの前に立て掛けられていた一冊の絵本。
“にじいろのななきょうだい”と題されていたその本は、表紙こそ見事な虹色をしていて一見するぶんには見事な装丁の絵本だったのだが、いざ中を暴いてみるとおよそ子供向けとは思えないドス黒い内容が詰まっていた。
ご丁寧に幼児向けで書かれている割に、色だけが難しい表現になっているのも理解できない。
「…これ、何て書いてあるの…?」
「ん? あぁ、それは“だいだい“って読むの。 解りやすく言えばオレンジ色の事よ。」
『橙』や『藍』など、幼い子供には読めない部類の字だと思われるのだが。
一応は美術館の備品として考えるなら、色の存在は重要だという事だろうか。
いくら考えた所で答えは出ないし、そもそも知りたいとさえ思わないギャリーは、絵本をパタンと閉じるとグレーテルに向き直る。
「無駄な時間を使っちゃったわ。 早いとこ次の部屋に行っちゃいましょう。」
そう言ってドアノブに手を掛けた瞬間だった。
バシュッ
何度か聞いた覚えのある音がしたかと思うと、ドアに赤い絵の具で書かれたような文字が浮かんでいた。
『はんにんは、ぜんぶでいくつ?』
「……ふぇ……っ。」
「グレーテル、泣かないで。 ビックリしちゃったんでしょうけど大丈夫だから。」
アナタは今独りじゃないでしょ、と安心させるようにギャリーは微笑んでみせる。
目に涙を溜めつつも、グレーテルは頷いた。
「いい子ね。 じゃあ一緒にこの謎を解きましょ。」
そう言って、今しがた閉じた絵本を再度開いて床に置く。
いくつ、と言うことは数字で答えれば良いのだろう。
「グレーテル。 7から1を引くと?」
「……ろく。」
「はい、良くできました。 問題はこの内の何人が犯人なのか、なんだけど……。」
絵本の中には犯人の数など明記されていない。
何度読み返してみても、互いに罪を擦り付けあう兄弟の痛ましい弁解だけである。
ギャリーが頭を抱えていると、突然グレーテルが絵本を音読し始め、奇妙な事を呟いた。
「そらのうえにすむにじいろのななきょうだいは、まいにちまいにちケンカばかり。 ―――……きょうもまた、ケンカがはじまってしまいます。
……ふつう……つまんない……。」