青年と少女の二人連れという、既視感のある光景。
パーティが増えて「さぁ次へ」となる前に、ギャリーはグレーテルの傍らに落ちていたピンク色の薔薇を拾い上げた。
自らのコートの裾を細長く千切ると、薔薇のトゲを覆うようにして巻いて行き、持ってもトゲが刺さらないのを確認してからグレーテルに持たせてやる。
「はい。 持ちやすいようにしといてあげたから、しっかり持っておくのよ。 これ、すっごく大切な物なんだから。」
「……これ、わたしのじゃないよ。 最初からここにあったお花…。」
当然、最初はそうなるだろう。 ギャリー自身、最初は意味も解らず粗末に扱った経験がある。
だがここでは命に等しい結晶なのだ。 もちろん置いていくなど言語道断である。
「グレーテルは見覚えが無いと思うけど、これは間違いなくアナタの物なの。 アタシにもあるわよ。」
ほら、と胸ポケットに差し入れた青い薔薇を示して見せると、泣き上がりだったグレーテルの顔が心持ち明るくなった。
「おそろい?」
「そ、お揃い。」
女の子は『お揃い』って好きよね、とギャリーは内心思った。 まぁそのお陰で話が進むのならそれに越したことはない。
抱き抱えたウサギの人形の手に持たせるようにして、ピンク色の薔薇を受け取ったグレーテルを確認したギャリーは念を押した。
「いい? その薔薇、絶対落としちゃ駄目よ。 誰かに渡しても駄目、ずっとグレーテルが持ってる事。 解った?」
グレーテルはこくんと頷くと、ピンクの薔薇を大事そうに人形ごと握りしめた。
子供は素直で可愛らしいなと思う。
ふと、自分の青い薔薇の事を思い出して、ギャリーは眉を潜めた。
(……毟られたはずだけど、今こうして生きてるって事は、この薔薇、本当にアタシの薔薇なのよね?)
確かめるように触れた青い薔薇の花弁は、馴染みのある感触だったが、それはギャリーの中の疑惑と違和感を増幅させただけだった。
「……ギャリーさん、大丈夫…? 痛そうな顔、してる……。」
「え? あ、何でもないわ。 大丈夫よ、アリガトね。」
幼い子供を不安にさせるのは良くないと、ギャリーは微笑みを作って、グレーテルの頭をポンポンと優しくたたく。
一瞬、グレーテルがびくっと跳ね上がったのを感じたので「驚かせちゃった? ゴメンゴメン」と、手をひらひら振って誤魔化した。
「さ、これから沢山歩くわよ。 疲れたら早めに言いなさいね。」
言いながらギャリーは、次の部屋へ繋がる扉へ手を掛ける。
グレーテルの両手はウサギの人形を抱くのに塞がっているので『手を繋ぐ』と言う安全策が取れない。
一際注意しながら扉を開け、二人は次の部屋へと進んで行った。