[携帯モード] [URL送信]

「アタシはギャリーって言うの。 アンタ、名前は何て言うの?」

「……ひっく………ぐ…、グレーテル……。」

「あら、可愛い名前じゃない。 羨ましいわ。」



まだ微かにしゃくりあげる少女・グレーテルから半歩ほど間を開けて、青年・ギャリーが膝を抱えて座っている。

あの後恐怖感が極限にまで達したのか、叫んで恐慌状態に陥ったグレーテルを落ち着かせるのにどれくらいの時間と労力を費やしただろうか。
相変わらず泣き止みはしないものの、会話まで持っていくことができた頃には、ギャリーの方がぐったりと蹲る形になっていた。
ひとまず落ち着きを取り戻したグレーテルから距離を置き、時間をかけてコミュニケーションを図った結果が先ほどの自己紹介となる。

「ねぇグレーテル。 アナタいつからここに居たのか解る?」



………………………………。



ギャリーの問いかけに対して、返ってきたのは沈黙。
だが無視している訳ではなく、抱いたウサギの人形に乗せられた顔は困惑の表情をしていた。

「…難しい事訊いちゃったかしら。 ごめんなさいね。 じゃあ、グレーテルは今いくつなのかしら?」

また泣き出されては敵わないので、わざと明るく話題を変えてみせる。
すると今度は、小さな声で「……じゅういち」と呟いたのが耳に届いた。



11歳。 まだまだ幼いと言える年頃だ。
だがイヴと比べると、子供らしさが全面に出ている感が否めない。
最もこの場合、グレーテルが子供らしいと言うよりイヴが子供らしくないと言った方が正しいのかもしれないが。

つい無意識に少女達の姿を重ね合わせていると、大分落ち着いたらしいグレーテルが口を開いた。

「……お兄…おねえ、さん?は、どうしてこんなとこに住んでるの…?」



自信無さげなのは、ギャリーの見た目が男なのに口調は女らしいせいだろう。
そこは自覚していたのか、あぁ、とギャリーが自らの補足をする。

「お兄さんで合ってるわよ。 でも呼ぶならアタシの事はギャリーでいいわ。 あと断じてここに住んでたりなんかしないわよ。」

「えっと……ギャ…リー、さん。 だってギャリーさん、ホー……。」

「だからそれ違うって言ってるじゃない! どこからそのホームレスって出てくるのよ……。」

「ママが……服がボロボロで、髪の毛切ってない人はそうだって言ってた……。」



グレーテルの母親は間違ってはいない。 と言うか子供を不審者から守る意味なら限りなく正しいのであろうが、今のギャリーの立場からすると厄介な刷り込み以外の何物でもない。

弁解するのも疲れたのか、ギャリーは大きな溜め息をひとつ吐く。
その様子を見たグレーテルは、首を傾げた。

「もしかして…ギャリーさんも、迷子になっちゃったの…? 」

「……まぁ、そういう事になるのかしらね。 その様子だと、グレーテルもそうなんでしょう? どうかしら、ここは一緒に出口を探してみない?」

アナタよりはここの事に詳しいと思うし、と付け加えて、ギャリーはグレーテルにウィンクして見せる。



しばらくは躊躇していたものの、また独りになるのは憚られたのか、グレーテルは言葉の代わりに頷いた。










『一人でいると 恐ろしい
 二人でいると 安心できる』





→ 「05」


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]

無料HPエムペ!