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紙で指を切った。案外深くやったみたいで、細長いその傷口に沿って血の玉がぷっくりと浮かんだ。なかなかやるな、紙のくせに。と半ば感心に近い思いを抱きつつ、自分の指をまじまじと見ていた。
理恵がぎゃーなんて大仰に叫んで絆創膏を取り出す。手際良く巻かれた絆創膏がサンリオやらディズニーやら、そんな風な柄物じゃなくてノーマルなカットバンなところが理恵らしい。と思いながらまたもや指を凝視していると、理恵が唐突に言った。

「…シュンは馬鹿なの?」
「は、何なのいきなり。理恵さん失礼じゃない?」
「んじゃ何、自分の指好きなの?」
「確かに長くて美しい指だけど」

馬鹿じゃないの、と理恵は明後日を向いた。俺は自分の指を切った物理のテスト用紙を細かく裂いた。ますます物理が嫌いになった。

「…テキ屋の指輪さ、」

ふと思い立って俺は口を開いた。

「大事にしてますか、理恵さん」
「は、何、シュンは自分の指見てそれ思い出したの?」
「はあ、まあ、質問に質問で返すなアホ」

むちゃくちゃに長い沈黙。

「……ぶっ壊れた、って言ったよねこないだ」
「あ?あー…華道部の"か"は怪力の"か"か」

ため息をつくと、一気に切なさが込み上げてきた。さっきの二倍以上はある、末永い沈黙。の後、理恵がぽつりと零した言葉に俺は聞こえない振りをして、みたび左手薬指の絆創膏を見つめた。



(好きならそう言やいいのに。)



あんなちゃちな指輪より、確かなのは知ってるけど、生憎俺はシャイだから。それを知ってて言うんだから、理恵って女は何て人が悪いんだ、と思った。

左手薬指の罠

タイムカプセル































あきゅろす。
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