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嗜虐心のあらわれだ。
誰か一人を鬼に見立て、その標的に向かい豆を投げ付ける。その瞬間に得られる爽快感とは厄払いと名の付いた加虐願望の達成による快感。見目好い理由付けの為された汚らしい欲は都合良く美化され罪悪感を伴わずして叶えられる痛みを覚えることも無く。自分が優位だと思い込み過信して自尊しきり陶酔状態快楽だろうな。まるで猿以下、つまりそういうことだろう?
今行われていることは。


「……七面倒な」

















「…あー、なあお前ら。鬼は時間制で交代したりはしないもんなのか」

「鬼は沢田向きなんですよ先生ぇ、本人もやりたがってますし。なあ沢田!」
「……え…」
「そうだよな」
「う………う…ん」
「ホラ!いいんですよコイツにずっとやらせとけば」


教室内で飽和する下卑た笑い声。

(よくもまあ……最低な奴らだな若くしてこんなモンなのか近頃のガキは…)
日本の未来が思いやられる。

(吸いてえ…)
無性にニコチンが欲しくなった。屋上と自由時間が恋しい。敢えて言うなら無論自宅も、つーか帰りてえ。



*****

波風立てずに、次々終わる時限と無難に訪れた放課後。俺は沢田に教室で残るよう告げ他の生徒を早々追い払った。いや、まあ悪いとは思ってるんだあの一方的なまるでリンチ紛いの豆まきの仲裁に入らなかったことについて。だがお前も男ならやられっぱなしはどうなんだと内心そればかり感じていたが。



「……悪かったな」
「…………何がですか」
「…ん、…豆、持ってきて」
「……止めなかったことじゃないんですか…」
「…あー…ああそうなんだけどなホラそもそも俺が豆持って来なきゃ何も始まんなかったワケで」
(冗談通じねえコイツ)
「……授業の一環で組み込まれてるんですよね」
「…………ーまあな…」
(だがそれで実際こんな事態になるようじゃあ情操教育もへったくれもねえよ腐敗してんな二十一世紀の教育現場)
「しかたないですよ」
先生のせいじゃありません。と沢田。
「節分なんて行事があるからいけないんです」

(……トんでんな、オマエ…)
思考回路ヤバくねえか。
あんまりやられキャラすぎてそれが脳漿にでも染み付いて腐ってきてんじゃねーのか。

「悔しくないのか」
「悔しがってもしょうがないです」
「……ヘエ」

(会話続かん……)
ここは教師として…否、一人の大人として何か為になる励ましでもくれてやらねばと思うのだがいかんせん。


「先生」
「…あ?」

「夜遅くまで起きてるほうですか」
(何だいきなり)
「……あー、まあ教師っつーのはお前らが思ってるよりずっと忙しいからな。採点やらプリント作成やら家にまで持ち帰って丑三つ時までお仕事コースだよ割と」
我ながらよくこんな職業続けてると思うよスゲー偉い俺。安月給・雇われ・弱立場・高ストレス。使い捨て要員なんだろうさどうせ。

「…ふうん」
「ふうんてなあお前、折角真剣に答えてやってんだぞ」
「俺だって真剣ですよ。……ね、…獄寺先生…」
「…何だよ」


「気分転換しませんか」
「は…?」

(やけに唐突な。いやまあ話の順序的にはそう可笑しくもないがだがお前何だその目は)
「……何だよ」
(大腿部を指でさするな上目遣いで何なんだ一体!)
「…だから……獄寺先生と、気分、転換」
「…お前……ッ」
(何だ何だこの雲行きの怪しさは。というか沢田お前仰天するほど日頃と雰囲気違くねえかおい)
「…ねえ先生俺ね」
(若干眉毛を八の字にさせて一見伺うように上目に見上げてくる。だがお前それは明らかに誘っている眼だろうよ何考えてんだあああわかんね最近のガキは全く以って理解の限度を越えている範疇外だよマヂ謎ィ宇宙!)

「ああゆうの結構すきなんですよ」
「…は?何」
「大勢が俺ひとりに」
「……」
「みんなに愛されてるみたいに感じちゃうんです勿論錯覚ですよでも俺あたまわるいから」
――先生はよく知ってますよね?
「……」
(確かに前回の小テストはクラスどころか学年最下位だったようだがってそんなことでなくうわヤベえ思考がまわらん)
「寄ってたかって……。わりとすきなんです、されるの」
「……ッ!」
「…想像した?」
(馬鹿言えお前それは)
「マワされてる最中はもうこのまましんじゃってもいいかもって思っちゃうほどわけわかんなくなるんです俺」
「…ちょ」
(ちょっと待て少し黙れその口を開くな一旦静まれ沢……)

瞬間、ほんの数秒だけ唇の上に被さるぬるい熱があった。沢田の唇だと気が付くまでに暫くの間を要しただなんて事はこの素晴らしき回転率を誇る頭脳を所持している俺に限って起こり得る筈が無い有り得ねえ。
(…クチビルすんげえ柔らかかったな……)
じゃなくて。そうではなく、待て俺しっかりしろ相手はほんのガキだぞ何歳離れてると思ってんだつーか教え子だぞ自分よ…!

「えっちなこと」
「ッ…沢田」
「想像、したんだよね。俺で」
「…いいから黙れお前オカシイぞ何か」
「獄寺先生ぇ…」
その瞬間下半身を中心にして縦に駆け登った筋の様な刺激に思わず俺は息を呑んだ。
「…ぼっきしてる」
「!」
(マジかよ)
沢田が俺の(みっともねえことに)隆々と自己主張してやがるイチモツを握っていた。おまけにヤワヤワと擦るいらんモーション付きで。サービスいいななんて言ってられんこれは由々しき事態だ何でこうなった。
(つかヤベエんじゃねえのマジで)
絶たれるかもしんねえ俺の教師生命に思いを馳せたのはつまり己の自制心云々が随分岸壁スレスレまで追いやられてしまっているかもしれねーという事柄を自ら把握してしまっているということに外ならず、こんなクソ喰らえな教員ライフも思い返せば捨てたもんじゃなかったと今更ながらに惜しく……。
(ではなく。待て。マジ待て俺こそ可笑しいだろ落ち着け相手はコイツだろうが。)
「あー、いいか沢田ー俺は男なんぞに血迷う気は更々…」
「俺じゃだめなの?」
「……」
(見上げんな。つぶらな瞳で訴えるな何かを)
「先生のからだは、イイって言ってるのに…俺にすーっごい欲情してる」
「…ッ!」
(馬鹿だろお前されどいや俺も)
「―……よせ」
「獄寺、先生ぇ…」
「…沢田!」
「怒らないで。でも酷くされるのも」
……すき、です。

耳朶に吹き込まれた甘い息は脳みそを融解させる毒か何かだったのだろうか。




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