[携帯モード] [URL送信]
時間おろし



今座っている。
その机の前に。

何のへんてつも無い灰皿がある。
中身もある。
中身は吸殻である。

「銀さん、この灰皿片付けませんか」
「後でも出来るから良いだろ」

先週にも、新八とこの問答があったばかりだ。

「僕、片付けますから」
「…いいったら!」

思わずオレは大声を上げて、片付けようとして伸ばした新八の手を掴んでまで阻止した。

先週から今日までずっと、この中身の有る灰皿はずっとある。
配置も変わらずに。
自分は吸わないのにある。
どうして、あるか。
そんなん。
オレ以外が吸ったからだ。
オレじゃない誰かが。
新八、神楽はガキだし吸わない。

だが、中身は先週から増えていない。

「…ちらかさないで下さいよ」
「…うん、わぁった」

オレは掴んだ手を離す。
どうやら知らずに力を込めて掴んでいたらしく、手を離すと新八はその部分を擦っていた。
申し訳無く思った。


因みに。
この吸殻は。
誰のものか。
土方のものだ。オレはこの吸殻を捨てれずにいる。
前までこの吸殻を捨てる時は便所に流していた。
その時はついでに小便もしていた。
理由は吸殻を流すだけじゃ、勿体ないから。
習慣のようになっていた。
その内。
吸殻を捨てに便所に灰皿を持って行くと、尿意をもよおす様になった程。
まるでパブロフの犬だ。
そんな習慣がつくくらい土方の吸った吸殻を便所に捨てていた。
その習慣を終らせたのは。
自分だ。なのに。
どういう訳か。
灰皿はオレの前から無くせないで居る。

「…」

机に突っ伏す。
灰皿の中の吸殻を眺める。
銘柄が目に入る。
随分と昔、自分も吸っていたものと一緒だ。
次に吸い口を見る。
アイツはほとんど吸い口に唾を付けないので、フィルターの中心に濃い小さな点を作らない。
その代わり、じんわりと濃い円がフィルター部分に広がっている。
それから察するに。
多分アイツは神経質だ。
いや、気にしぃのかも知れないが。
そんな煙草だからこそ、時々アイツの吸ってるのを横から強奪していた。

しかし。
こんな事を思うのは無意味だ。
この吸殻の主は。
元恋人であり。
別れたのであるから。自分から別れを切り出したのに、こんな事を思うのはおかしい。
なのに。
この吸殻の中で、アイツがどれを最後に吸ったか分かる。
そんな自分はもしかしたら。
引きずっているのかも知れない。
そんな自分を脱するため、捨てようと考えるが結局実行出来ていない。

この灰皿は元々万屋には無かった。
アイツが持ってきたものだ。

「いい加減丼を灰皿代わりに使わせんのは止めろ」

という理由から持ってきたのだ。
灰皿代わりに使わせていたせいだが、アイツの口から丼の単語が出てきたのには笑った。

この家にライターが無いのに求めてきたときはチャッカマンを出した。

「え…」

初めて出した時にアイツは絶句していたのを今でも鮮明に覚えている。他にも煙草にまつわる記憶が、色々ある。

2人で出掛けたりは全く無かったので、余計そういう事は覚えているようだ。
自分は良く言えば万屋だが悪く言えば、半ば無職だ。
逆にアイツは高級取り。
お上に使える、お偉いさんだ。
オレみたいな地に足着かない様なのと道を闊歩しちゃ、あまり宜しくない訳である。だから。
自分からは2人で外に出ようなんざ、言わなかった。

だが。
アイツが望んだので、夜の散歩は良く行った。
誰も居ない道に2人。
その空間は良かった。






あきゅろす。
[グループ][ナビ]

無料HPエムペ!