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月夜竜

小十郎は唸った。

『全てを話すには一握りの時間と多大な覚悟を要するかと存じますが…』

小十郎が心配なのは親バカ気味な輝宗が卒倒でもしないかということ。

近頃の梵天丸の周りには不可解な事が多すぎる。
というより梵天丸自身が、かもしれない。

小十郎の一生は梵天丸にお供すると、立てた誓いは折れることはあるはずがない。
が、流石の小十郎も戸惑いを隠せなかった。

口ごもる彼に輝宗は一抹の不安を感じた。

『梵天丸がどうかしたのか?』

取り乱しそうな輝宗を前に打ち明ける覚悟を決めた、その時だった。

『此処に居ましたか、小十郎!』
取り乱した喜多が割り込んできた。

『若様を待たすとは何事です、急ぎ向かいなさい!』
彼女はお仕えしている輝宗がいることに全く気づかず小十郎を叱り続けていた。

『すごい剣幕だのぅ、喜多は』

小十郎の影から陽気に笑う輝宗が姿を現し喜多はこの上ない程に驚いた。
そして真っ赤になった顔が見えなくなる程頭を下げた。

『顔をあげよ、小十郎はわしが引き留めておったのじゃ』

事情が飲み込めた喜多と輝宗が再び小十郎の手元に視線を流す。山のような団子に。



『此れが…若様のご用なのですか?』
不審な顔を見せる喜多。
小十郎は黙って頷いた。

『丁度その話をしておったのじゃ、続きを話すのじゃ』



どう言えばよいだろうか…

小十郎は少し考え込むと小さくため息をついた。

百聞は一見に如かず

『ご自身の目で確かめてくださいませ』

小十郎はふたりを連れて梵天丸の部屋へ向かうのだった。



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