月夜竜
拾参
天井の模様、不思議なしみ、どれもが覚えのあるものだった。
それが、自分が今、どこにいるかを教えてくれた。
その見慣れた景色を小さな影が遮った。
『…千代。』
梵天丸の小さな呼びかけに応えるようにその影、千代はニコリと笑みを浮かべた。
彼女の姿がいつもより霞んで見えた。
梵天丸は悟った。
自分のせい、だと。
龍は言っていた。
いつも自分を助けてくれる度に千代は不思議な力を使っていた。
言うなれば、千代の命を梵天丸に分け与えるようなもの
今日の沙汰は生死をさ迷った分、千代の命も危うかったに違いないのだ。
まだ力の入らない手を伸ばして彼女に触れる。
温かいとも冷たいとも言えない、儚げで今にも消えてしまうんではないかというような千代の手…
けれどたしかに在る感触、キュッと力を籠めれば握り返してくれる。
『…ありがとう、千代』
助けてくれて
『…ありがとう、』
そばに居てくれて
『…ちよ、ありが、とう』
自分と友達になってくれて
気づけば涙が溢れていた。
千代はふんわり微笑むと、小さな手でその涙を拭ってやるのだった。
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