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月夜竜
拾弐

龍の右目に収まるものが自分の目だったと言われても梵天丸には信じられない話だった。

『少々小さかったがのぅ』
彼が言うように右の目は左の目と比べてかなり小さいものだった。

『感謝しておるぞ、まことによい目だ。残りの目は大事にするがよい』
自分の目がそこまで誉められる理由はわからなかったが、梵天丸は素直に頷いた。


『しかし、お前は本当に運の良いやつじゃ』
龍が呟いた。

『良い奴に気に入られたもんじゃ。座敷わらしという奴には感謝するんじゃぞ』

自分が生きて居られるのは千代のお陰、龍はそう言った。

座敷わらしは住み着いた家に幸運を呼び込むという。
その力で救われたということなのか。

『溺れたときも助けを呼んでくれたって言うのに…千代には感謝してもしきれないな』

武家の嫡男という身分で自由が限られる梵天丸。
友達というような存在は居なかったが、千代が現れてから変わった。
彼女が友と呼べる存在になり、他にもそう呼べる妖怪たちと出会えることができた。

もう十分に千代からは与えられていたというのに…

『千代には好きなおやつをたくさんくれてやろう!』
それが梵天丸に思いついた最大の感謝の意だった。

『それが良かろう、あ奴も喜ぶであろう』
言い残すことはもうなかったのか、龍は眩い光の中に消えていった。

梵天丸は眩しさに目を瞑った。
次に目を開いた時、其の目が映していたものは見慣れた天井だった。


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