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月夜竜
拾壱
輝宗の様子を窺う二人はまるで豆鉄砲を食らった鳩。

『小十郎はなかなか頑固なやつじゃのう』
その目に涙を浮かべるまで笑った輝宗は息も絶え絶え呟いた。

『聞けば全ては梵天丸の意思に従っての事、お前は主の命に従ったまで。責める事など一つも無いではないか』
うんうん、と言った自分で頷きながら輝宗は続けた。

『それに…、お前に罰を与えては梵天丸に叱られてしまうでな』
まるで我が子にそうするように輝宗の手は小十郎の頭をくしゃっとなでた。

その手の温もりが涙の栓をはずしたみたいに、小十郎はうつむいたまま溢れてくる涙を堪えることなく落としていった。

うわ言のように、ありがとうございますと呟きながら。





『小僧、気分はどうだ』
低く嗄れた声で目を醒ますと其処はもはや見慣れた真っ白な世界。

梵天丸は右目に走る激痛に唸った。

踞った梵天丸の頭上でまた嗄れた声がする。
『痛いだろう、右目がないんじゃから』
その声の主、龍はにわかに嬉しそうだ。

どういう訳か、彼の顔には傷つき塞がっていた存在しない筈の右目があった。
『わしの右目が気になるようじゃな』

問いが言葉になる前に、龍が答えた。
まるで心の中を覗かれているみたいだ。

龍と向かい合っているといつもそう感じた。

彼の顔を窺えばニヤリと妖しい笑みを浮かべた。
『これはお前から貰った右の目じゃ』



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あきゅろす。
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