月夜竜
拾
『頭を上げよ、小十郎』
輝宗の言葉に従うと、そっと肩を叩かれハッとした。
目の前にあるのは優しげに微笑む輝宗の顔。
『処罰など与える気は無い、今はゆっくり休むのじゃ』
その寛大な言葉に、いつもならば輝宗に意見などする事の無い小十郎が反論した。
『それはいけません!私は輝宗様のご子息に傷を付けたのです、罰せられることをしたのです!』
その小十郎の勢いに輝宗は圧され少々考え込む。
『ならば…』
重苦しく口を開き言い渡した処罰は…
『梵天丸についててやってくれ』
小十郎が此れを理解するのには僅かながら時間を要した。
『…それでは、罰になりませぬ。』
この人は何処まで優しいのだろうか…
ここで初めて綱元が口を挟んだ。
『小十郎、殿がこう言って居られるのだ。黙って従え』
有無を言わせぬ物言いに小十郎は口を閉ざさぬをえなかった。
行き場を失ったやるせない気持ちが胸に渦巻く。
込み上げてくる何かをうつ向き唇を噛んで堪えた。
『綱元、そんなに怖い顔をするでない。小十郎も思い詰めるな、良いな?』
輝宗の声に顔を上げた小十郎はまだ腑に落ちない様子だ。
其れを感じた輝宗は場違いな程楽しげに笑った。
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