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月夜竜


おびただしい量の血を見たことが無い訳では無かった。
各地で戦や小競り合いが頻繁に起こっている。
言ってしまえば見慣れているも同然だった。

その筈だった。

小十郎は閉めきった部屋の真ん中で正座を崩さぬまま待っていた。

おそらく輝宗がこの部屋に来る。
事の成り行きを話さなければならない。

目を閉じて振り返れば、広がるのは赤い色。
梵天丸のぐったりする様子を思い出すだけでその身に震えが走る。


自分は、大変な事をした。

目の前は真っ暗だ。


『小十郎、いるかの?』
襖の向こう側から声がした。
穏やかで柔らかな声、その主は輝宗であった。

消え入りそうな声で返事をして、静かに襖を開けた。

『大丈夫か、小十郎。ひどい顔色をしておるぞ』

輝宗は優しい。
大事な子を傷つけられたというのに、傷をつけた張本人を真っ先に気遣う。

その優しさで胸が痛い。

いっそのこと責めてくれた方がどんなに楽だろうか。


おぼろげな記憶を辿り、全てを話した。
同席していた綱元は耳を疑うような不思議な話に終始目を丸くしていたが、輝宗は真っ直ぐに小十郎を見据え、時おり相づちを打つだけ。

『そうか、よくわかった』
すべてを聞き終えたとき輝宗はそう言った。

小十郎は床に頭が付くほどに深く頭を下げ、とにかく謝罪の意を唱えた。

『申し訳ございません、どんな処罰でも請ける覚悟はできております。』
小十郎の言葉に迷いは無かった。



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