月夜竜
七
雨が上がった米沢城の庭に一人の少年の姿があった。
成実だ。
暇をもて余していた彼は遊び相手を求め城を訪ねてきた。
しかし、梵天丸も小十郎も部屋には居らず庭を散策していた。
『成実さま、お茶でもいかがです?』
庭に面した廊下から女中が成実を呼んだ。
盆を持って立っていたのは喜多。
小十郎の姉であることで他の女中より親しみを感じる。
彼女の方も弟と仲良くしてくれている成実には気さくに接していた。
『気が利くな〜、喜多』
『若様も小十郎も居ないのですからお暇でしょう、あ、お団子もありますからね』
喜多は朗らかな笑みを浮かべ、庭を見渡せる眺めのいい場所にお茶を用意してくれた。
こうして二人が不在の時に暇を潰すのに付き合ってくれたのも今回が初めてではなかった。
団子を頬張り、程よい温度のお茶を喉を鳴らして飲み干した。
『二人は何処いっちゃったわけ?あんな雨降りにさぁ』
二本目の団子に手を伸ばしながら成実は問おた。
『詳しくは聞いてないのですが…なんでも若様の強いご希望だったみたいですね』
成実の問いに答えながら成実の器に茶を入れ直す。
『まだ早い時間に出掛けましたからそろそろ帰られますわよ、二人きりでそう遠くには参られないでしょうから』
自分も連れていってくれなかったのが寂しいのか、悔しいのか、不満げな成実を喜多はやさしく宥めていた。
二杯目のお茶を飲み終わるころ、二人は城門の方が騒がしいことに気づいた。
顔を見合わせどちらからともなく騒ぎのする方へ向かい出した。
其処で目にしたものはどす黒い赤にまみれた梵天丸の姿と、それを抱き抱え同じ赤に身を染めた小十郎の姿だった。
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