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月夜竜


『怖いか、小僧?』

見上げると笑みを浮かべているかのような竜の顔が目に入る。

『お前が思う通り、痛みはその身を貫くほどぞ』
龍の言葉に梵天丸の喉が鳴った。

『ワシはお前から奪い取る気はない、怖いなら止めるが良い』
龍は事も無げに言う。

震え出す小さな手で右目に触れた。
眼帯の上からも分かる腫れ上がった其処、自身の悩みの種。

母が、そして自分も忌み嫌う醜い右目だがそれは紛れもなく自分の体の一部。
それに自ら刀を向けるなど、思い立ったとはいえ子供の梵天丸が怯えるのは無理はない。

大人だってそうだろう。


『梵天丸さま』
静かにかけられた声にこれでもかと言うほど反応してしまった。
小十郎が後ろに控えていることを忘れるほど思い詰めていた。

わずかに震えていた手に大きくてごつごつした手が重ねられた。

見上げると真剣な眼差しの小十郎と視線がぶつかった。
『今から…酷なことを申します』

小十郎は一息ついて、口を開いた。

『危険を冒して、右目を切り取ったとしても…義姫さまは…』
『…わかっている』梵天丸は小十郎の言葉を遮るように言葉を発した。

この醜い目が無くなったとしても母が自分を愛してくれはしないだろう。

『そんなこと、梵天丸は端から期待していまい』

『申し訳ありません』
梵天丸はと頭を下げる小十郎を制す。

『梵天丸は、前に進みたいんだ。この目に囚われずに…』
心は決まっていた。

ただ、怖かった。
言葉では簡単に勇むことは出来る。

しかし、震える手は隠せない。
無意識に小十郎の着物の袖を掴んでいた。
くっきりと、皺が残るほど。



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あきゅろす。
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