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月夜竜


急激に変わった景色の変化に頭が追い付かず梵天丸は開いた口が塞がらないといった状態だった。

目の前の小十郎にも同じこと

自分達が居たはずの山小屋は跡形もない。
それどころか何もない。

真っ白な世界。

『な…何事…』
いつもは冷静な小十郎も流石に慌てふためいた。

対して梵天丸は嬉々とした表情に変わる。

『向こうから会いに来てくれたんだ…』

この何もないどこまでも続いていきそうな真っ白い世界を梵天丸は知っていた。
自分は此処に来たことがあった。

龍が夢に現れるときにいる世界というのが此処と全く同じなのだ。

龍の姿を探し、辺りを見回していると耳に覚えがある嗄れた声が聞こえてきた。

『小僧、ワシは此処だ…』

すぅ…と辺りが暗くなる。
見上げると光を遮る大きな黒い影。

後光射すその影はまさしく、梵天丸がどうしても会いたかった者、蒼い龍のものだった。


『決心はついたようだな』
龍は梵天丸の目を真っ直ぐに見据え、言った。

『うん、この右目、お前にくれてやる』
梵天丸は脇差しに手をかけた。鞘から刀を抜いてみる。
此れで右目をくりぬくつもりで。

手入れを施された刀身はスラリと伸び輝く程に綺麗だ。
切れ味は身をもって体感済みだった。

その時斬った左手からたくさん血が流れたのを思い出す。
激しい痛みも思い出す。

刀を持つ手に震えが走った。

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