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月夜竜


目蓋は重い…
でも苦しくない

体の自由も利かないな…
でも苦しくない


『………!……さまッ!』
なにか聞こえる。

頬に温もりを感じ急速にぼんやりしていた意識が覚醒する。

そして脳裏に浮かんだ、自分を救ってくれた美しい女性

梵天丸はもう一度彼女を見たくて重たい目蓋を持ち上げた。


『梵天丸様ッ!』
光と共に視界に入り込んだのは青ざめた顔の小十郎だった。

『よくぞご無事で…ッ』
そう言うや否やびしょ濡れの梵天丸の体を抱き締めた。
その小十郎の着物も雨に濡れていた。


『心配…かけて、御免…』
その声は小十郎の胸元に押し付けられ、くぐもっていた。

その声を聞いてか、小十郎の腕の力が弱まった。

『全くです…』
緩んだ腕から覗き見た小十郎の顔は今にも泣きそうなほど歪んでいた。

初めて見た小十郎の表情に梵天丸は胸を痛めた。
『本とに…御免…、なさい…』

『もう、良いのです…。それよりも、お召し物を乾かさなければ風邪をひいてしまいます。雨を凌げる場所を…』
小十郎は梵天丸を離し、立ち上がった。

『でも、よくここが分かったな』
重たい着物を纏い煩わしそうに立ち上がりながら梵天丸が言った。
『それは…』
口ごもった小十郎は微妙な顔をしていた。

『虫の知らせ、でしょうか。自分でもよくわからないのですが…此方に自然と足が向かいまして…』
首を傾げながら告げた小十郎の後ろからひょっこり何かが飛び出てきた。

にっこりと微笑む小さな影は…千代だった。

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あきゅろす。
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