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月夜竜

…はぁ、…はぁ
梵天丸は肩で息をしていた。

薄暗く靄がかかった山道
歩いても歩いてもいつか見た不思議な光を帯びた沼は見えてこない。

以前来たときよりも確実に歩いている。
それなのに景色はいつまでたっても変わらない。
同じ所をぐるぐると歩いているように感じた。

疲れてはいる。
けれど決して歩みは止めなかった。

考えないようにしていたが、小十郎の言葉が頭の片隅で繰り返していた。

小十郎はいつも自分の味方だった。
それ故、反対された事が思いの外辛かった。

もやもやとする心を振り払うかのように前に歩みを進めるが、一向にたどり着けないことに苛立ちを感じはじめていた。

その心を映すかのように空模様は暗く曇り始めていた。

頬に冷たいものが当る。
生い茂る木々の枝をすり抜け落ちてきた雨粒だった。

雨足はあっという間に強くなり、梵天丸の着物を重たくしていく。
体力がどんどん奪われる。

それでも梵天丸は歩みを止めなかった。
先へ、先へ…。
ひたすら歩き続けた。


…ショキショキ…

…ショキショキ…

暫く歩くと聞きなれない音が耳に届いた。
足を止め、耳を傾ける。

微かではあるが水の音もする。

ショキショキ…

ショキショキ…

その不思議な音のする方へ誘われるかのように梵天丸は歩みを進めた。

音に合わせ、妙な歌も聞こえてきた。

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あきゅろす。
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