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月夜竜

『梵天丸さま、お待たせ致しました。』

片手に盆を乗せ、違う方の手で暖簾を避けながら小十郎が顔を覗かせた。

みたらし団子の漂う甘い香りに、いつもなら飛び付いてくる筈の梵天丸の姿がなかった。

嫌な予感がした。

廁という可能性もあった。
しかし、小十郎が真っ先に向かったのは馬を繋いでいた柵のある場所だった。

『何ということだ…』

二人が乗ってきた馬の姿が無い。
小十郎は頭を抱えた。

梵天丸の頑固さを甘く見ていた自分にため息が出たのだった。



『梵天丸さまでねぇか!』
山の麓に近づいた頃、声をかけられた。

いつか出会ったあの老人だった。

『じいさん、また会ったな』
馬上から気さくに声を掛ける梵天丸に老人は深々と頭を下げた。

『こんなところにまぁた来なさるとは…ありがたやありがたや…』と神々しいものを拝むかのように手を合わせていた。
老人はまたあの山に向かうという梵天丸に驚き、引き留めようとしたものの、引き下がらない彼に蜜柑をくれたのだった。

満面の笑みで感謝の言葉を返し、梵天丸は馬を走らせた。


見上げれば陽は高く登り、雲ひとつ無い空。
それなのに山は少し肌寒く、薄暗い。
相変わらず少々の不気味さを感じさせた。

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