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月夜竜

陽がまだ天辺に届かぬうち、梵天丸と小十郎は一頭の馬に跨がり北の山を目指していた。

穏やかな陽気、見晴らしのいい畦道に規則的な蹄の音が聞こえてくる。

畑仕事をしていた農民たちが頭を下げているのを見送りながら小十郎は馬を進めた。

『理由を尋ねても良いでしょうか?』
目的地の山に近づきてきたとき、小十郎が尋ねた。

梵天丸は肩越しに見える小十郎の横顔を見つめた。

『理由を言っても引き返すなんて言わないな?』
小十郎の体にしがみついていた手に弱冠の力が籠められた。

『それは聞いてみないと判りませんな』
真っ直ぐ前を見据えたまま、小十郎は答えた。

少しの間黙った梵天丸は意を決したかのように口を開いた。
『今朝、夢を見たんだ。この前と同じ竜が出てきた』

小十郎は黙ったまま、梵天丸の声に耳を傾けた。

『だから、また会いたくなった』
そうして小十郎の背中に顔を埋めた。

また頭が可笑しいと思われただろうか。
小十郎の顔を見ることが出来なかったのだ。
小十郎は馬を止めた。

どうしたのかと思い顔をあげると一軒の茶屋が目にはいった。

『一度、休憩としましょう』
小十郎は軽快に馬から降りると近くの柵に馬を繋いだ。


『理由は…それだけですか?』
店先の長椅子に腰をかけ、注文を済ますや否や小十郎が問いかけた。

頭の中を覗き込まれてるのではないかと思うくらい見つめられている。

『ハハッ…小十郎は何でもお見通しか』
梵天丸の顔に苦笑いを浮かべた。



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