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月夜竜


梵天丸はその夜夢を見た。
いつかも見た竜の夢を。

何を言うでも無く、真っ白な世界で梵天丸は竜と見つめ合っていた。


目が覚めた時、不思議な感覚だった。
夢を見ていたのではなく、まるで今まで此処ではない何処かであの竜と一緒に居たかのような…

『小十郎、ひとつ頼みがある』
梵天丸は朝、小十郎と顔を合わすなりそういった。

一瞬眉根を寄せた小十郎だったが、事も無げに答えた。
『なんでございましょう』

いつもなら『先ずは挨拶を』と注意するところだったが、梵天丸の表情があまりに真剣だったので思い止まった。

『山に行きたい』
答えは余りに唐突だった。

『この間行った山だ、北の山。一人でいくとまた皆に心配をかけるだろ?だから、小十郎にも来てもらいたい』
答えに戸惑っていた小十郎に代わり梵天丸は途切れた会話を繋いでいく。

『勉強も稽古も明日必ずまとめてやるから』
ここまで懇願されたのは初めてかもしれない。
目が、真剣そのものだった。

ダメか?と悲しげな目で見上げられた小十郎は言葉をつまらせた。
両目をきつく閉じ、眉間を右の手でつまむような姿勢で固まっていた。
そして深くため息をついた。

この間に梵天丸には解らない葛藤が小十郎の中で渦巻いていた。

『…いいでしょう。今日だけ、特別ですよ。』

小十郎の言葉で梵天丸の表情が瞬時に明るくなった。

『ありがとう!小十郎はわかってくれる男だから梵天丸は好きなんだ』
満面の笑みを返され小十郎は思った。

梵天丸の父・輝宗が親バカになる心境と言うものが、自分にも理解できてしまってる現状を。
立派に育ってほしいからこそ厳しく、といつも考えてはいる小十郎なのだが…。


跳び跳ねるようにご機嫌な梵天丸の背後で、小十郎は主君に解らぬようため息をついた。



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