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月夜竜


縁側で再び一人になった梵天丸
その背後から声がした。

『…梵天丸』
ニコリと笑みを浮かべた父、輝宗が立っていた。

輝宗は梵天丸の隣に腰を下ろし絶え間なく落ちてくる雨粒を見つめた。

『つまらぬのぅ』
灰色の空から梵天丸に視線を移す。

梵天丸も首を傾げながら父を見つめ返した。

『雨では元気に駆け回るお主を見れぬからのぅ』
父の大きな手は梵天丸の頭を優しく撫でた。

その手の温もりが梵天丸凍りついていたかのような心を溶かしていく。
同時に溢れる涙。

梵天丸は父の懐に顔を埋めて泣いた。

声を殺してしゃくりあげる息子を輝宗は優しく抱き締めた。

―すまん、梵天丸…

梵天丸が辛い思いをしていることは知っている。
けれど人の気持ちを易々と変えれることができない事も知っている。

どうすることもできない自分が悔しい。

抱き締める腕に僅かに力が込められた。

『父上…』
顔を押し付けたまま発した声はくぐもって聞き取るのがやっとだった。

輝宗はどうした、と問い掛けた。

『梵天丸は…強くなりたい』
肩と声を震わせ息子はそういった。

『もう誰にも涙は見せたくなかったのに』
珍しく弱音を吐く梵天丸。

『泣いても良いのだ、梵天丸』
輝宗はそっと呟いた。

『父の前だけでは強がらなくてよいぞ』

梵天丸は泣いた。

心は辛く苦しかった。
けれど、久しぶりに借りた父の胸は温かく居心地が良かった。



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