月夜竜
三
『本当だ』
そう言えば竺丸も気味悪がり近寄って来なくなると思った。
避けられるくらいなら自分から遠ざけてやる。
そう思っていたのに意外にも竺丸の目は怯えながらも興味を示すかのように此方を見ていた。
そして再び問う。
『どんな風体なのです?怖くは…無いのですが?』
身を乗り出してまで問う姿に驚いたが、それがおかしくて梵天丸の表情に明るさが戻った。
『怖くないぞ、みんな面白い奴らだ。いたずらはするけどな』
笑顔で答える兄を見て、竺丸の表情を和らげる。
二人の関係をぎこちなく感じていたのは自分だけだったのかもしれない。
他愛もない会話だったが久しぶりに過ごした弟との時間とても楽しかった。
しかしそんな穏やかな時も直ぐに終りを告げる。
『竺丸?何処にいるのです?』
弟を探す母の声。
梵天丸は反射的に身を強ばらせた。
竺丸は立ち上がり声のする方へ駆け出した。
『母上!』
廊下の角から現れた義姫に飛び付いた。
『部屋に居りませぬから心配しましたよ』
笑顔の母、優しい眼差しを竺丸の向けている。
…見たくはなかった
間もなく自分に向けられるであろう氷のような眼差しも
…見たくはなかった。
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