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月夜竜


気にしていないと言っても、ふと気がつくと目で追う母の姿。

今も庭を楽しそうに駆け回る弟、その姿を見つめる母に自然と目を向けていた。

自分には決して向けられることの無い優しい眼差し、それを一身に受ける竺丸を心から羨ましく思っていた。

『梵天丸さま』
小十郎の声で我に返った。

小十郎の事だ。
梵天丸の頭の中などお見通しの筈。
けれども彼はその事に触れてくる事は無かった。

『もう読み終わったので?』
梵天丸の前に開かれた書物に目を向け、思いの外優しげな声で尋ねてきた。

『もうちょっとだ』

自分が書物から目を逸らしていた事などお見通しだろう。
それを咎めることはない。
胸の内もわかっているから、それが彼なりの優しさなのだ。

その優しさが嬉しくもあり、時に苦しくもなる。

『小十郎…』
小さな声で呼ぶと小十郎は素早く顔を上げた。

『…梵天丸に気遣いなど必要ないからな』
笑顔でそう告げられ、小十郎は言葉が見つからないという様子だった。

沈黙が部屋を包む。梵天丸が書物に視線を戻すとほぼ同時に書物を閉じる音がした。
小十郎だ。

『今日の勉強はこれ迄といたしましょう』
不思議そうに眺める梵天丸に小十郎が告げた。

そして懐に手を差し入れ何かを取り出した。。

『…笛?』

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あきゅろす。
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