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月夜竜

木刀と木刀とが激しくぶつかり合う音がする。
相変わらず猪突猛進な梵天丸は激しく打ち込んでいた。

『やれやれ…』
小十郎は半ば呆れながらも稽古の様子を見守っていた。

『どうした?梵天丸、其れで終わりか?』
成実は力任せでがむしゃらな梵天丸の太刀を全て受けていく。

『う、る、さ、いッ』
必死で繰り出す一撃、一撃が全て難なく受けられて苛立ちが募る。
小十郎の助言などもう頭に無かった。

『そろそろ…、此方からもいくぞ』
梵天丸の一太刀を軽く弾くと成実は木刀を強くにぎり大きく踏み込んだ。

ものすごい速さで自分の前に飛び込んでくる大きな体に思わず目を瞑った。

次に襲ってくるであろう衝撃の代わりに成実の驚く声が聞こえてきた。
『えっ、ちょっ…うわっ!』


恐る恐る開いた目に映ったのは尻餅をついた成実だ。
彼の後ろに[袖引き小僧]、足元に丸い毛玉のようなもの、[すね擦り]という足元にじゃれついて人を転ばす妖怪も居た。
この妖怪もいろんな場所で目にする。
伊達家の回りにも住み着いていたようで家臣や女中が転ぶのは大抵この妖怪のせいだった。


離れて見ていた千代はその様子を見て可笑しそうに笑っている。


『卑怯だぞ!妖怪を使うなんて』
成実は身体を起こして怒りを露にしている。
梵天丸が妖怪を仕向けたと思っているようだ。

『バカを言うな!そんな卑怯な真似なんかするもんか!』


いかさまをしてまで勝とうという考えなど頭に微塵も無かった梵天丸も心外だと怒りを成実にぶつけた。



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あきゅろす。
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