桜の終わる頃。
桜の木の下の道を吾妻未希と一之瀬和成。
二人で、一緒に帰る。
誰も見ていないのを見計らって。
他愛もない会話の合間に。
「未希、あのさ」
「ん、なに?」
「キスしていいかな?」
なんて、和成は言う。
未希は耳まで赤くして、それこそ頭から湯気でも出しそうな勢いで。
俯いて、黙り込んで、小さな声で。
「いいよ」
と返す。
和成は、未希と同じ目線、それより少し下まで屈んで、未希の顎に手を掛けた。
触れた瞬間、跳ねる息。
「…っ」
触れた肌は熱く。
未希の閉じた目の、まつ毛が薄く震えていた。
こみ上げるのは、愛しさと切なさ。
和成は、未希の唇に、自分のそれを。
そっと、合わせた。
未希と和成、桜の木下で、キス。
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