Novel〜他〜
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「初めて君がここに来たときから気になっていた」
初めてっていったらちょうど2年前だ
「まだここが開業して間もない頃に、君が
ハナちゃんの注射に来たときから
ああ、可愛い子だなって」
先生は話しながらタオルを額に置いて
自分はそばにあった椅子を引き寄せて座る
「でも寅美君は学生でそんな性癖がないこともわかっていたから
これからも近所の獣医でいようと思っていた」
タオルがなくなると先生は手を組んで頭を垂れた
普段の先生からは想像が出来なくらい情けないその姿に、ちょっと優越感みたいなものを感じて
俺は思わずニヤけてしまいそうになる
話しを聞きながら、先生にまったく嫌悪感を抱かないことが自分でも不思議だった
「でもハナちゃんがここへ迷い込んできたとき
君がハナちゃんを抱きしめている姿を見て、このままの関係を不満に思うようになってしまったんだ」
いままでも散歩の途中に先生に会うことはあったが、あのときを境に先生はもっと俺に近づきたい、俺のことをもっと知りたいと思うようになって
あんなふうに話しかけたり、桃を持ってきたくれるようになったのだそうだ
「でも、正直に告白しても受け入れてもらえないとわかっていたから
こんな最低な方法に出てしまった
ほんとうにすまない」
「先生」
「君の言うことなら何でも聞くよ
これからは絶対に話しかけないようにする」
「先生ってば」
「君の気が治まらなかったらここを移転してもいい」
「せんせいっっ!」
がんばって声を上げると先生はやっとこちらを見た
「先生は、それでいいの?
俺と、一回ヤったら満足?」
「寅美君」
どういっていいかわからない顔をする先生を見ながら
俺は自分の気持ちを知ってしまっていた
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