Novel〜孕〜 14 ★ 一刻を争う事態だったので、とにかくワサビは村にむかいました。 案の定、あの大きな音に驚いて、村の人たちがどやどやと集まっています。ベリーの家の前です。 村を出て行った姉のマドがいることに、また一層に驚いているところでした。 「レーヌさん!」 「あぁワサビ、大変なの。ベリーがいないのよ!」 息を切らせてレーヌの元に駆け寄ったワサビは、彼女の横で悲痛に泣いている女の人を見て、おそらくベリーの母親なのだろうと推測しました。 そして魔術師が川を指差します。 「母親が言うには、この時間はいつも川に水を汲みに行くらしい。 今から手分けして探しに行こうと思っとるんだが」 「あ、ま、待って下さい!」 村の人も、そしてレーヌたちもワサビを見ました。 てっきり「僕も手伝います!」と言うだろうと思っていたようです。 「まだ、その、川は危険です。もう少し落ち着いてからのほうが…」 必死に言い募るワサビに、レーヌははっとした様子で、小声で聞いてきました。 「ワサビ…、もしかして誰か川に?」 「…はい、ナッツが」 しかし、村人たちはすでにベリーを探しに出かける気満々です。突然不思議なことを言いだしたワサビをじっと見ています。 あたりがシンとしてしまい、ワサビが焦る心と、回らない頭にパンクしそうになった時でした。 一人の村人が言ったのです。 「ワサビくん、もう隠さなくていいんじゃないのかい」 「・・・え?」 「君の家族のことさ。魔物なんだろう?」 ワサビは村の人たちの顔を見回しました。 村の人たちもお互いに、「お前も知ってたのかい」「もちろんさ」と頷き合っています。 「み、皆さん、知って…?」 その問いに、村の女の人が「そりゃあ気付くよ」と肩を竦めました。 「この村に子供が何人か、皆知ってるんだよ?」 「ハロウィンのお菓子で、すぐに気付いたさ」 「今年は一気に二人も増えて、びっくりしたよぅ」 そうそうと、女の人たちは笑い合います。 男の人たちも続けます。 「森に木を切りにいくと、子供の声が聞こえるし、そこここに誰かが通った跡があるんだ」 「隠したがっているから、こっちは見つけちまわないようにするのが大変だったぞ」 なぁ?と頷き合う村の人たちに、ワサビは涙が止まりませんでした。 「す、すみません…。受け入れて、もらえないって、思っていて」 頭を下げるワサビの肩を、レーヌの優しく撫でます。 「うちの村のレーヌさんは予知夢も出来れば、ちょっとした魔法も使えるんだよ。 姉のマドさんなんて、今は魔族だもんねぇ」 「そうさ。そんな村で生きてる俺たちを見くびっちゃいけねぇな」 「ごめん、なさい…! うちの息子も、川に行ったんです。 自分たちで探そうと思って、村の人たちには川に近付かないように言いに来ました」 そうだったのかい、と村の人たちは大きく頷きました。 「行こうかワサビ。人数が多い方が、きっと早く見つかるさ」 「はい…!よろしくお願いします…!」 大きな掛け声が上がりました。 ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |