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Novel〜孕〜





狐の里は、王族が住む館と、その周辺に普通の狐が暮らす地区があり、それを総称して里と呼んでいる。そして里を囲むように守備隊がいるのだが、それには訳があった。

里の外には、「はぐれ狐」と呼ばれる荒くれ者たちが住んでいたのだ。

元は里の者なのか、他の土地からやって来たのか、素性はわからないが、彼らは守備隊の目を盗んで里に忍び込み、家を荒らしたり、危害を加えたりするのである。

テタたちはどうやら里を抜け、外に出てしまったようだった。

彼らの、否テタの無事をひたすら祈りながら、微かな匂いを頼りにロコは走った。




「あにうえ、少し休みたいです〜」

一方の子狐一行は、手柄を挙げたい上の狐と、小さい狐とで兄弟喧嘩が始まっていた。

「お前たちがついてきたいと言ったんじゃないか。わがまま言うな」

「それはそうですけどおにいさま、テタがもう限界ですわ。もう帰りましょうよ」

兄や姉に置いていかれたくない一心で頑張っていたテタも、もうヘトヘトだった。一言も泣き言はいっていないが、足は重く、疲労の色が濃い。

やはり末弟は兄狐もかわいく思っていたので、しかたなさそうに肩を落とす。

「大丈夫だもん…ロコに褒めてもらうんだから」

「ロコだったら、お前の出す火の玉を見ただけで大号泣だろうさ。
さぁ、もう帰ろう」

帰る理由が自分のせいなのが悔しいのか、テタはしばらく嫌々とくずる。しかし帰ればロコに会えると姉狐に囁かれ、急にこの場にロコがいないことが寂しくなったテタは大人しく帰ることにした。

しばらく歩く。
姉狐のひとりが異変に気付いた。

「おかしいわ。
私、さっきもここを通った気がする…」

「そんなまさか。似たような木があるからそう思うんだよ」

「いいえ、絶対よ。あの切り株と、真っ赤なキノコ、さっきも見たもの」

「・・・」

兄狐が何かはっとした顔で、術を放った。
何もなければ、ただ光の玉が通過するはずのところが、景色が一瞬だけ、ぐにゃりと曲がるのを一同は見る。

「迷わせの幻術だ!」

「誰だ!姿を現せ!」

いきり立つ子狐と、怯える子狐が警戒する中、体力の限界に緊張も重なって、テタはその場に座り込んでしまった。
テタの手を引いていた姉狐は周りの見るのに必死で、弟の手が離れたことに気付かない。



「こりゃあ上玉だぁなぁ」

「キャッ」

しわがれた声とともに襲われた浮遊感に、テタは悲鳴をあげた。
顔をあげると、目の前には歯の汚い、下劣な笑いを浮かべる大人の狐。はぐれ狐に、しっかりと抱きかかえられていたのだ。

「!
て、テタを離せ!!」

「テタぁ?もしかしておめぇ王子か?そしたらおめぇたちも?こりゃすげえ!」

ぎゃははは!と館にいるときには聞いたこともないような下品な笑いに、子狐たちの尻尾が恐怖でぶわりと膨らむ。足が竦んだ彼らは、もはやテタを奪いかえすどころか、自分の身も守れそうになかった。

「仲間がいればぁなぁ。何人か連れてくんだがなぁ。とりあえず一匹でいいかぁ」

「ヤ、やぁ…」

にたーっと至近距離で笑われ、テタはガクガクと震える。
今日習ったばかりの火の玉を出すなんて思いつきもしないほどだった。


ありえない状況に、鼻が狂ってしまったのか、いつも隣にあって嗅ぎ慣れている匂いを拾う。
テタは耳をピンと立てて、叫び出した。

「ロコ!!ロコー!!!!」





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