Novel〜孕〜 4 ★ 先程、追いつかれた際に右足を噛まれ、速度は格段に落ちたはずなのに、獣たちはまだ追いかけっこを楽しむつもりらしい。同じ距離を保ちながらユキの後を追い続ける。 馬鹿にされていることが頭にくるが、自分にはどうすることもできない。 闇雲に走ったせいで帰り道もすっかりわからない状態だった。 「っあ・・・!!」 道なき道を逃げ回っていたユキは、ザザっと足を滑らせながら立ち止まる。 目の前を、小さな谷が彼の行く手を阻んでいた。 両足とも無事で、なおかつ普段の余裕があったなら、迷わずここを飛び越えただろう。 しかし、仲間を失い、右足を負傷し、さんざん獣たちに追い掛け回された彼にはもう、飛び越えようという考えすら思い浮かべることが出来なかった。 荒く息をつきながら、後ろを振り向く。 獣たちも、そろそろこの遊びに飽きてきたらしく、じりじりとユキとの間を詰めてくる。 ―もう、ここまでか・・・。 剣を扱う彼は多少の怪我や痛みには慣れている。しかしそんな彼でも「死ぬほどの痛み」は想像が出来なかった。 だがもう逃げられない。ユキは先ほどまで、必死に走っていた表情とは正反対の、感情の欠落した顔で、ぼんやりと獣たちを眺めていた。 ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |